No.1ホスト、初手から詰む‥?

文字数 2,576文字

「スカーレット…だよね?君本当に?」
婚約者であるシアンがかなり訝しげに俺の事を見つめて言った。
「え、え〜!?い、いいやですわ?殿下。わ、私どこからどう見ても正真正銘スカーレットですわ…。」

やばいやばいやばいやばい!!!!攻略キャラと仲良くなるどころか、初手から今までの中身と違いすぎて正体を疑われてる…な、何でこんな事に…

遡る事約7時間前〜

俺は自分の今の状況を知り、ヒロインを惚れさせると決心してから、日々ホスト時代のブランクを取り戻して対人スキルを完凸させるために特訓に明け暮れていた…。

そんなある日の朝食、爆弾はいきなり落とされた。

「そうだ、スカーレット。今日シアン殿下が昼過ぎにうちへいらっしゃるから、ちゃんと粗相のないようにね。」
「…ふぇえ!?」
「ス、スカーレット?大丈夫…?もしかして具合でも悪いの?もしそうなら、シアン殿下には断るよう…」
「だ、大丈夫ですっ!!お母様。久しぶりに殿下に会えるのが嬉しくて、少し驚いてしまっただけですわ。」
「そう?ならいいんだけど…。無理だけはしないでね。」

あっぶねぇ〜、セーフ!!危うく、攻略キャラ研究の貴重な機会を逃すところだった。ってか、一応婚約者と言えども、こちらは一侯爵家であちらさんは王族だっていうのに、娘の都合で当日のドタキャンを提案するなんて…母親、強すぎないか?

あ、そうそう。ちなみに俺は一大決心をしてから対人スキルの特訓と共に徐々に家族とも距離を詰めていた。そのおかげか、最近は父も母も距離が近くなった気がするし、朝食でもたわいない会話を少しずつだがするようになった。今のところ全て、良い方向に進んでるんだ…。だから今日は、絶対に失敗する訳にはいかない。少しのズレが俺を破滅へと導く…。

朝食をとった後、俺は部屋に戻って少しでもシアンに俺の印象を上げてもらうため準備に勤しんでいた。

「とりあえずドレスは〜、ってうわぁ‥なに、これ」

スカーレットの持っているドレスはどれも、お世辞にも良いとは言えないものばかりだった。派手な色にリボンやら薔薇やらをごちゃごちゃに付けまくったデザイン。
なんでも付ければ可愛いってもんじゃねぇぞ、スカーレット‥。俺はその中から一番シンプルなものを選んだ。ヘアメイクは全てメイドのマゼンタにしてもらった。テーマは華やかでシンプルなご令嬢だ。いつもはごてごてに頭を盛り、クソデカいリボンを付けていたらしいが、全てやめた。シンプルにハーフアップに、小さなバレッタ。これでいい。素材が派手な分、身につけるものはシンプルな方が綺麗に見える。

そしてシアンがうちへ来て、俺とシアンは庭にある温室でアフヌンをする事になった。この世界にも、アフヌンの文化があったとは‥。ここからは俺のターンだ。やるぞ、スカーレット!

「シアン殿下、この様な春の暖かみも増す中、眩い輝きを持つ殿下にお会いする事が出来て光栄ですわ。」

(どうだっっ!ここ数日俺が特訓して、ようやく掴んだこの徹底した表情管理は!スカーレットの顔は確かに派手で、少しキツめだ。だがしかし!表情筋を鍛え、コツさえ掴めば美しく上品な笑顔を作る事など造作もないのだっ!!ふっ‥俺のカリスマ性ってやつが出てしまったかな?さぁ、どう出るシアン?)

「‥‥‥あかね‥?」
「えっ?あ、あかね‥?」
「あっ!い、いや、その‥そう!その茜色のドレス、君の瞳の色と合わせてるんだろ?すごく綺麗で見惚れてしまったよ。」
「まぁ‥!お褒めに預かり光栄ですわ、殿下。」

(こいつ‥あかねって言った、よな?‥‥いやいや、考えすぎだよな、うん。まさか、ね?)

それから俺はシアンと他愛もない会話を続け、なんとか過ごした。シアンは攻略キャラだけあって、実物は確かにイケメンだった。太陽に照らされて輝く銀髪も、瞬きする度音が聞こえそうなぐらい長いまつ毛も‥だけど、気のせいだろうか。なんだか、シアンがよそよそしい態度をとっている様に見える。普段からこうだったのだろうか‥。そう考えていると急に、シアンが切り込んできた。

「スカーレット…だよね?君本当に?」
「え、え〜!?い、いいやですわ?殿下。わ、私どこからどう見ても正真正銘スカーレットですわ…。」
「そ、そうだよね。急に変なこと言ってごめん。」

まずい‥やっぱりいきなりメンヘラ悪役令嬢から淑やかな美人キャラにキャラ変するのは思い切りが良すぎたか!?いや、でもこれ以上好感度を下げない為にもキャラ変は必須だし‥。でも、話してて何となく感じるけど‥こいつ、俺の事元から別に嫌ってないような‥というかむしろ‥っていやいや、ないな。

「殿下も、そう言ったご冗談を話されるとは思っていなくて‥でもそんな殿下も素敵ですわ。」
「本当に君はいつもと違うね‥」

シアンはまだ少し訝しげにしながらも照れながら言った。
まさかシアンも婚約者の中身が26歳ホストであるとは思いもしないだろう。こっちは言わば、接客のプロ。1人の人間を褒めて誑かす事ぐらい造作もないのだ。それはもちろん一国の王子だって例外じゃない。
だが、そろそろ切り上げないとまずいかもな。流石にないとは思うが、何となく胸騒ぎがする。これ以上シアンと一緒にいると正体を見破られる気が何となくするのだ。そんな訳ないのに‥。

「あっ‥もうこんな時間。殿下といると、とても楽しくてつい時間を忘れてしまいますね。でも、これ以上殿下を引き留めてしまう訳にもいきませんし今日は、これでお開きにしましょうか?」
「そうだね、本当はもっと君といたいけど。まぁ、来月からは学園でも会えるしね。今日の君はとても魅力的だったよ。まぁ‥いつもの君も僕は好きだけど。じゃあ、また学園で会おう。」
「はい、殿下。それでは、ごきげんよう。」

‥はぁぁぁ〜!!!やっと、終わった。めっちゃくちゃ長く感じた。こんな緊張したのいつぶりだろ?とりあえず今日は、熱い湯船にでも浸かってよく寝よ‥。なんか大事な事聞き逃したような気もするけど‥まぁいいか。



「ライト、スカーレット嬢との茶会は終わった。帰るぞ」
「はい、殿下。‥なんだか殿下、嬉しそうですけど何かあったのですか?」
「えっ?い、いやなんでもない。」

シアンは荷物を従者に預けて足早に馬車へ乗り込んだ。

「‥そんなはずないのに‥どうして僕はあの時、あの笑顔が朱音に重なって見えたんだ‥」
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