第2話 鼠小僧は七代目

文字数 499文字

 あの大泥棒鼠小僧の六代目というのが父の自慢であった。本人はさほど才能もなく、主にサラリーマンで稼いでいる。双子の男の子を授かった際のはしゃぎようときたら大変だったと母から聞いた。七代目は一卵性双生児これぞウルトラセブン! 正義の味方になぞらえるのかと問うと、鼠小僧は義賊なり、加えてセブンの戦いは善と悪に割り切れないと延々語るのには閉口したそうだ。

 両親は籍を入れず、僕たちは別々の小学校へ行き、双子であることは徹底的に隠された。一人が盗みに入っている時に、もう一人が遠く離れた地でアリバイを作れば神出鬼没の七代目になれると言うのである。これは受け入れ難いと試しに家出して反抗してみたが、あっけなく祖父にみつかり念書を書かされ指紋を押した。

 馬鹿者め。祖父は両親の前にその紙切れを置いて叱りつけた。筆跡はおろか、指紋だって違うぞ、一卵性といえども。二人のつむじの向きだって反対なのを、お前たちは気づいているのか。一緒なのはDNAだけで、それじゃ却って双子の仕業だと宣言してるようなものだろうが。

 七年がたち僕達はもうすぐ同じ高校を卒業する。父のようにはなるなと、あの日伝説の五代目は囁いた。

<了>
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み