第1話 構想

文字数 1,019文字

銀行は、やっと首を縦に振った。



自分が何者にもなれないで終わるのは、あまりにも悔しいと思った。だったらやりたいことをやろうと、酒場の主になろうと思ったんだ。

ハコはどうしようか、そうだなあ
ひとりで回せるキャパ。カウンターだけでいい。
あたしの好きなウイスキーを多めに。
ビールを上手く注ぐのは得意だが管理が面倒だ。瓶にしよう。
1時間に1杯飲むかどうか、みたいなか弱い女の子に迎合する気は無い。カシスだカルーアだなんて置くのはやめよう。

あたしがいる。それが一番の来店動機にならなくては。だからまずあたしが楽しく働かなければ。この際だからイヤなものは排除して、それでも来てくれる人を集めよう。

時間はそうだな、この街はまだ深夜から朝にかけてが弱いってずっと思っていた。
人はいるのに店はない。カラオケボックスかカラオケバーくらい。
いわゆる「バー」は2時には閉まる。
そこにもしかしたら勝ち筋があるんじゃないだろうか?
2軒目、3軒目の顧客を狙って、オープンは22時。7時まで開ける。7時になれば私の大好きな定食屋がオープンするから。そこによってご飯を食べて帰ればちょうどいい。

食べ物は…バーだからな。あんまり凝ったモノはなくても。
サラミピスタチオチーズチョコレート。

料理は出来るから多少は作ってもいいよ。
ナポリタンとかチャーハンとかモツ煮とか。
あ!そばとかお茶漬けとかあったら飲んだ後の締めにいいんじゃないかな。

照明は程よく薄暗く、エロくならない程度に。
BGMはジャズでしょう。あたしの好きなトロンボーンを多めに。
テレビがあってもいいけど、無音のトムとジェリーを流すだけ。
屋号はどうしよう?とりあえずあたしの通り名から
「ビリーバー」
信じる者、と取られたらダサいな、却下。

「バービリー」
バーバリーのロゴと同じフォントで看板作ったらいいかも。


次々と溢れ返るあたしの思い付きに付き合ってくれる、シズオカ銀行融資課の升田は言った。
「楽しそうですね!ボクも絶対行きます!」

呑気な男だ。
「他人事みたいに言ってんじゃあないよ。これは君の案件なんだから。あたしのユートピアは君にとってのユートピアにもなるんだろ?何とか通せこの稟議!」

それから半年。
升田を引っ張り回し、上の者を引きずり出し、虚勢を張って詭弁を振るって。この人はちゃんとした、お金をきっちり返す人間です。と銀行が思ってさえくれれば。事実はどうでもいい。


そして冒頭に戻るが、
銀行は、やっと首を縦に振った。


つづく。
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