第2話 珈琲
文字数 817文字
「相変わらずお前の舌は確かだね。タバコ吸うくせにさ」
久々に行った店で飲んだコーヒー。「いつもより味が深いねえ」と言ったあたしの味覚を称えたのはここのオーナー。
バグコーヒー。「頭がバグるほど美味いコーヒーを飲ます」という理念もどうなんだろうと思うが、それでもそのカリスマ性でこの男には熱狂的なお客がたくさんいる。
女性のように伸ばした髪はサラサラで、体躯はヒョロヒョロで、ペラペラとよく喋り、そして何より頭がいい。
「あたしが口喧嘩で勝てなさそうランキング」ぶっちぎりの一位だ。
「バグさん、銀行から融資がおりることになって。これからはあたしを個人事業主仲間にしてくれる?」
「ほお!やっとこのステージに立ったか!ちと遅いがもちろん大歓迎よ。節税のこととか教えてやるからな。前から言ってたひとりバーでいいんだよな?」
「うん。カウンターだけでいいんだ。多くて8席とかかなあ?」
「いい線だろうな。客は取れるのかい?」
「なんの為にここいら飲み歩いてると思ってんのさ!『あいよ!』『おう、ビリー』って行ける店が49軒よ。そこのスタッフ、客仲間。数えたら170人が必ず一度は来る。彼らがまた来たくなるような、いい店だと噂を流布するような接客、あたしなら出来ると思う」
「そうか。過信はいかんが自信がないよりはマシだもんな。あ…ちと待てよ」
電話を取り出すバグさん。
「もしもし、コウちゃん。こないだ言ってた物件もう誰か決まった?え?まだ空いてる!実はさ、ウチのお客でかくかくしかじか…」
ガチャ。
「おいビリー出掛けるぞ」
この人のスピード感は本当に凄い。あたしがのんびり屋なのもあるだろうが、一緒にいると目がクルクル回る。
創業計画書をイカしたカバンに詰め込んだあたしは、ダッシュでバグさんの後を追った。
この人に付いて行くのは大変だ。でも付いていけるような、追い付き追い越すような人間にならなくちゃ、あたしの人生なんて何でもない。
今は後を追うだけ、だとしても。
つづく
久々に行った店で飲んだコーヒー。「いつもより味が深いねえ」と言ったあたしの味覚を称えたのはここのオーナー。
バグコーヒー。「頭がバグるほど美味いコーヒーを飲ます」という理念もどうなんだろうと思うが、それでもそのカリスマ性でこの男には熱狂的なお客がたくさんいる。
女性のように伸ばした髪はサラサラで、体躯はヒョロヒョロで、ペラペラとよく喋り、そして何より頭がいい。
「あたしが口喧嘩で勝てなさそうランキング」ぶっちぎりの一位だ。
「バグさん、銀行から融資がおりることになって。これからはあたしを個人事業主仲間にしてくれる?」
「ほお!やっとこのステージに立ったか!ちと遅いがもちろん大歓迎よ。節税のこととか教えてやるからな。前から言ってたひとりバーでいいんだよな?」
「うん。カウンターだけでいいんだ。多くて8席とかかなあ?」
「いい線だろうな。客は取れるのかい?」
「なんの為にここいら飲み歩いてると思ってんのさ!『あいよ!』『おう、ビリー』って行ける店が49軒よ。そこのスタッフ、客仲間。数えたら170人が必ず一度は来る。彼らがまた来たくなるような、いい店だと噂を流布するような接客、あたしなら出来ると思う」
「そうか。過信はいかんが自信がないよりはマシだもんな。あ…ちと待てよ」
電話を取り出すバグさん。
「もしもし、コウちゃん。こないだ言ってた物件もう誰か決まった?え?まだ空いてる!実はさ、ウチのお客でかくかくしかじか…」
ガチャ。
「おいビリー出掛けるぞ」
この人のスピード感は本当に凄い。あたしがのんびり屋なのもあるだろうが、一緒にいると目がクルクル回る。
創業計画書をイカしたカバンに詰め込んだあたしは、ダッシュでバグさんの後を追った。
この人に付いて行くのは大変だ。でも付いていけるような、追い付き追い越すような人間にならなくちゃ、あたしの人生なんて何でもない。
今は後を追うだけ、だとしても。
つづく