第1話

文字数 1,919文字

「準備はいいか?」
「おう、まかせろ。」
「大丈夫よ。」
三人は、お互いの顔を見ながらうなずいた。
どう見ても、人待ち顔で、そのトンネルは地下に続いている。お宮のずっと上、大きな木に囲まれ誰にも気づかれず、だが誰かを待つように。


 冒険心にあふれた小学5年生の三人は、ひそかにここに入ってみる計画を立てていた。
「まず、一等大事なのは、食料だろ?炭火焼鳥むすびは、外せない。それから、炭酸入りの飲み物。」食いしん坊の翔太が言う。
「絆創膏いるよね。包帯は?」看護師の母を持つ真奈は、まずけがの心配だ。
「まず、懐中電灯だろ?ランタン式のがいいかな?予備の電池、いるよな。」リーダー格の優太郎が実用的な発言をする。
 三人は、興奮しながら会議を進めた。1週間、ワクワクしながら準備を進め、いよいよ明日の土曜日が決行日だ。興奮しながらも、それぞれのベットで眠りについた。
 
 「さあ、いこう!」
トンネルを抜けると、そこは巨大なゲームセンターだった。
「え?」
『あなたは、999,999,999人目の入場者です。あなたは3時間、特別優待者です。このゴールドバッジをつけていると、いくらでもコインがもらえますよ。もちろん、お友達が使ってもいいですよ。』
「あ、ありがとうございます。」
ちょっと噛みながらも、翔太はなんとかお礼を言った。カーバトルにクレーンゲーム、モグラたたきに太鼓たたき、いろんなゲームで遊び倒した。うーん。うれしいけど、なんか違うような。
『はい、3時間終了です。では、またおいでください。』
トンネルを抜けて元の地点に戻ってきた。お小遣いの心配をせずゲームセンターで遊び倒したのは、初めてだった。
「なんか、腹減った。」
三人は炭火焼鳥結びを食べながら休憩した。
「ねえ、もう一度行ってみない?」
「えー、当分ゲームセンター行きたくないよ。」
「でも、ほかのところに行けるかもしれないでしょ?」
「そうだね。行ってみようか。」

「さあ、いこう!」
トンネルを抜けると、そこは海底だった。
「え?」
『あなたは、999,999,999人目の入場者です。あなたは3時間、人魚になれます。このゴールドバッジをつけていると、いくらでも泳げるし、呼吸もできますよ。団体でいらっしゃった場合は、メンバー全員分、さしあげますよ。』
「あ、ありがとうございます。」
ちょっと噛みながらも、真奈はなんとかお礼を言った。きれいな熱帯魚やたつのおとしご、まんぼうにクマノミ、クラゲに刺されて慌てて消毒しながらも、海底で遊び倒した。うーん。うれしい大満足。
『はい、3時間終了です。では、またおいでください。』
トンネルを抜けて元の地点に戻ってきた。今度はちょっとおやつタイムを取った。

「これは、もう一度行くしかないな?」
「うん!!」
「さあ、行こう。」
トンネルを抜けると、そこは?


巨大迷路だった。
「え?」
『あなたは、999,999,999人目の入場者です。あなたたちは、この巨大迷路に無料で挑戦できます。3時間以内にゴールできたら、豪華賞品が手にできます。このゴールドバッジをつけて挑戦してください。
「あ、ありがとうございます。」
ちょっと噛みながらも、優太郎はなんとかお礼を言った。十階建て、途中で忍者や恐竜とのバトル付き、仕掛け満載の豪華巨大迷路だ。行き止まりになったり、忍者にクイズを出されたり。クイズでは、頭脳系では優太郎が、芸能系では真奈が、スポーツ系では翔太が、抜群の強さを見せ難なくクリア。
恐竜の出現には驚いたが、これはひたすら走って逃げた。どうやら、恐竜にはスピードセーブの暗示が掛けてあるようだ。それでもリアルな恐竜に追いかけられるのは、本気で怖かった。どんな仕掛けだ?トカゲを巨大化して、整形手術でもやったのか?
階段上がって、降りて、いきどまって、どうしても抜けられず困っていたら、妖精が現れて隠し扉のヒントをくれたりもした。こっちは、どんな仕掛けだろう。15センチくらいの、羽で飛ぶかわいい妖精。
最後に、ボートがあって、三人で乗り込んで、ざぶーんとため池に突っ込んだらゴールがあった。
『はい、2時間55分でゴールでした!では、商品をどうぞ。またおいでください。』
トンネルを抜けて元の地点に戻ってきた。



と思ったら、自分のうちのベッドの上だった。
「え?夢だったのか。えらくリアルだったなあ。」
 集合場所のお宮に行ったら、三人とも同じ夢を見ていた。トンネルは、いくら探しても見つからなかった。


 なぜか、大きな木の根元に『豪華賞品』と書かれた箱が三つ置いてあっただけだった。中味は、ゴールドバッジだった。
三人は顔を見合わせた。
「これって、またいつかトンネルを抜けることができるバッジかなあ。」
 


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