第24話 氷のオフィス❄️

文字数 1,086文字

 わたしはキーを受け取った。
 エレベーターではなく階段を使った。
 心臓が痛い。
 震える左胸に手を当てて痛みを和らげようと試みた。

 階段を上がり切り、ドアの前に立つ。キーを鍵穴に差し込み、ギュルっ、と回転させると少し動いたドアの隙間から冷たい空気がするすると流れて来た。

「うっ・・・・・」

 思わずもう一度封印したい欲求に駆られる。
 だけれどもわたしにはポリシーがある。

『働かざる者は食えない』
 いや、微妙に違うか・・・

「さあ、行こう」

 ギギ・・・とドアを全開にした。半歩足と上半身の前半分をドアの境界面に、ふすっ、と滑らせると、まず、むき出しの顔面が反応する。

「い、痛い・・・」

 皮膚の痛点を的確に突いてくるその冷気に抗って2メートル突き進むと、パネルがあった。凍傷一歩手前の指の、その手袋を外して静電気によるタッチで電源を入れた。

 天井のエアーコンディショナーが音を立てる。
 わたしは体全体でその温風を受け止めようとした。

『ぎゃああああああ!』

 なんてことだ。水分があれば必ずや氷と化すようなぐらいの冷たい風が頭から浴びせられた。

 心の中で叫び、辛うじて発声はなんとか堪えた。

 いけないいけない。気合を入れないと。

 わたしは残りのエアコンもすべてオンにし、冷風を置き去りにしてその部屋へとダッシュした。

 それは資料庫。

 大慌てでキーをガチャガチャやって開けた途端中に飛び込んでドアをぱっと閉める。そしてエアコンのスイッチをオンにした。

 出てくるのは・・・

 やった、温風だ!

 わたしは想像した。

 おそらくこのエアコンの吸気をするダクトは守衛さんたちの部屋と同系統のラインなんだろう。
 ビルが閉鎖されている年末年始の間も守衛さんたちがテナントのフロアをあまねく守り衛るその尊い職務のお陰で奇跡のようにこのエアコンの真下の空間だけは春の日の温暖のような、ううん、真夏の太陽の光の直射のような熱に満たされる。

 わたしは日に手のひらをかざすようにして、末梢神経から体温を確保する。

 そして十分に体が熱せられたと見るや、だっ、とわたしのデスクにダッシュする。

 シュシュ、とフロアカーペットを滑るようにターンしてデスク上の電話の、留守電機能をオフにする。

 来た!

 トルル、とビジネスフォンのコール音が鳴り、わたしは神速で受話器を取り上げる。

「あけましておめでとうございます! 今年もよろしくお願いします」
『あけましておめでとうございます。こちらこそよろしくお願いします。では、早速新年一発目の注文をお願いします』

 やった!
 今年も初売りはわたしがゲットだっ!

 また一年間頑張ろっと・・・
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