第4話:邂逅!八ヶ岳哨戒任務③

文字数 7,957文字

 地上40mほどの高さを戦闘を終えたヴァルキリー3機がホバリングしている。眼下には巨大UMAの残骸。地表に近い向こう側からは、化け物の黒い煙が立ちこむ中、2機のヴァルキリーがゆっくりと近づいてくる。ナカガワとマモルの機体だ。
 「マモル!」
 「マモル隊長!!」
 ほんの数時間ほど別れていただけなのに、ヴァルキリー1号機の姿を見るのがとても懐かしく感じられる。その1号の機体には目立った損傷はないものの、所々黒々と変色しているのが見てとれた。性能には問題がないと思われ、飛行する姿はいつもと何ら変わりはない。
 「ふうー、ほんと焦ったよー…」
 全員の機体が合流したところで、マモルがまるで茶化して言う。
 「お前なぁ」
 1号機の受信無線から村田の少し怒ったような声が聞こえてきた。
 「何がだよ」
 「あのなぁ、俺たちが、どれだけ心配したと思ってるんだ!」
 「そうよマモル。私たち、すっごく心配したんだから。…本当に…、もう…今度は、ダメなんじゃないかって…」
 百合子の声は少し震えていた。富田もナカガワも同じ気持ちだった。
 マモルはその声を静かに聞きながら、口元を少し引き締めゆっくりと言った。
 「うん、知ってる。みんなが、俺のために命懸けで頑張ってくれていたこと。無線で断片的だけど、聞こえていたよ。本当にありがとう」
 「うわーん!!マモルたいちょーう!」
 富田が堪えきれず、大泣きを始める。
 「あはは、文三。声が大きすぎるぞ。耳が痛いよ」
 マモルは自身が無事なことよりも、こうやって、イチハ隊のみんなが一人もかけることなく揃えたことを何より喜んだ。
 命を預けあう仲間。その繋がりは並大抵なことでは断ち切ることはできない。自分たちは皆、お互いの為に命を尽くす。その為には例え自らの命が犠牲になろうとも、何も後悔することはない。俺は、俺の命にかえても、この仲間を守り通す。自身の命が救われた今、マモルは改めてそう心に誓ったのだった。
 「無線が、聞こえていたのか?」
 ナカガワが疑問を口にする。
 その後を村田が引き取った。
 「そうだぜ、マモル。無線が聞こえてたのか?お前は一体今の今まで、どこでどうしていたんだ?」
 村田がHUDのカメラをオンにして、マモルに聞いた。そのタイミングで同じく全員がカメラ通信をオンにした。
 「ああ、それなんだがな。俺は、あの黒い化け物に食われたんだ。」
 「やっぱり… …」
 百合子が不穏な顔をした。
 「ただ、厳密に言えば、食われたというより、飲み込まれたという表現が正しいのかもしれない。化け物の口には確かに牙のようなものがあったが、それに噛み砕かれるわけではなく、唾液で吸い込まれていったような感じだ。」
 「奴は鉄の塊を食うのかよ」
 「分からないが、そうなのかもしれない。ただ、飲み込まれた体内は思いのほか広かった。そのおかげで、俺はヴァルキリーをホバリングすることができたんだ。広いと言っても、常に軌道修正しなければ内壁にぶつかってしまう程度の広さではあったが。それに、みんなが外で派手にやってくれてたからな。ヴァルキリーが頻繁に壁に叩きつけられて、コクピットの中でもんどり打ってたよ」
 「あらあら、ちょっと危なかったわね。」
 「あー、その件は、すまない!お前の事は二の次だったんだ」
 村田はマモルが化け物の体内で苦戦しているところを想像して、ほくそ笑んだ。
 「知ってるよ!お前たちが決死の作戦決めてくれたんだろう?だったら、化け物の腹の中で踊るくらい、我慢しなくちゃな」
 「もしかして、俺たちがヨルムンミサイルの集中砲火を実行するのも、予想していたのか?」
 「ああ。お前らなら必ず実行してくれると思っていた。だから、俺はそのタイミングで、化け物の内壁にミサイルをぶっ放す準備をしてたんだ。結果は御覧の通りさ。」
 「ちぇっ、やっぱりお前には何でもお見通しなんだな。」
 村田は悔しがりつつも、やはりマモルの無事がなにより嬉しかった。
 「本当に、無事で良かった」
 ナカガワが、これ以上ない。心底ほっとした様子で言う。皆も同じ思いだった。
 「有難うナカガワ。俺がはぐれてしまった状況で、良く頑張ってくれたな。心から礼を言うよ。
 お前の孤軍奮闘がなければ、俺は多分この世にはいないだろう。」
 「そんなことは、どうでも良い。俺はマモル隊長が助かっただけで…。」
 「ああ。」
 HUDのカメラの前で、ナカガワは少し泣いた。百合子も富田も、それを見てもらい泣きしてしまった。そこで突然、イチハ隊全員のコクピット内で緊急警報が鳴り響いた。
 「なんだ?」
 皆がまだ事態を読み取れない中、無線が入った。分析班の伊佐間だ。
 「おい、みんな」
 「伊佐間!」
 マモルが声を掛けた。
 「おう、マモル。助かって良かったな。だが、そうも言ってられなくなってきた。」
 「どうした?」
 「件の奴は、生命反応が消えたようだ。殲滅完了した。だがしかし、次だ。南の奴が来た。そこから5km先、すぐ目の前だ。異常熱源地帯が今まさに周辺一帯に、突如発生している。直ちに迎撃態勢をとれ。すぐにだ!」
 「イチハ隊、上空に散開ッ!!」
 マモルの合図で、ヴァルキリー全機は空高く上昇を始めた。上空に向かって五本の機影が走った。
 急上昇しながら、百合子は伊佐間がデータで示した辺りを見下ろした。まさにそのタイミングで、先ほど殲滅したものと同種の黒く巨大な生き物が、何もなかった山林から姿を現した。
 「ち!くそッ」
 ナカガワが言葉を吐いた。
 「一体、どういうマジックなんだ?あの巨体が木々の中から現れるってのは…」
 「土地から湧き出てくるのでしょうか?」
 村田の疑問に、富田が空で答える。その眼鏡はやはり、巨大生物の姿を捉えたままだ。
 「まずいな…」
 マモルが事態を懸念する。
 「ああ、まずい」
 伊佐間がそれに同調する。


 巨大UMAには意思というものが存在するのだろうか?それについては、まだ全く分からない。
 だが、いずれにせよ、その足取りは確実にイチハ隊のいる場所を目指して進み、5kmあった道のりを少しずつ狭めていった。
 マモルと伊佐間のまずい、という言葉を聞いて、イチハ隊全員は理解していた。
 現状のヴァルキリーには武器がない。AIM9ZZヨルムンミサイルは全弾打ち尽くしてしまった。今使用可能な武装はM61Bバルカンのみだが、これでは奴に致命傷は与えられない。
 一旦引いて、補給を立て直すか。いや、研究所に戻っている内に、奴が街などを狙わないという保証はない。そして近くにヴァルキリーを迎え入れるようなドックも補給所もない。一体どうする。
 マモルの頭の中では、リスクとメリットを天秤にかけ、様々なプランが駆け巡っていた。
 AIM9ZZヨルムンミサイルは打ち尽くして残弾ゼロ…。ヴァルキリーの機体の状態は全機良好…。ただし、燃料があるとは言えないので、早急にカタをつける必要がある…。隊員の体調は良好…。士気も悪くはない…。
 マモルは頭の中で今ある手札をすべて並べてみる。そして、並べた手札を遠くから俯瞰する。
 「伊佐間。」
 マモルは唐突に、伊佐間を呼んだ。
 「あいよ。」
 眼下で少しずつ移動する化け物を見ていたイチハ隊隊員たちが、一斉にマモルの次の言葉を待った。
 一葉マモルは未来科学防衛研究所設立以降、アース防衛隊発足当時のメンバーである。
 若干21歳でメンバーに抜擢された技能と頭脳はやはり抜きに出ており、非常時でもその時点での最適解を選択できるクレバーさを持っていた。
 だが、それはマモルの非凡さを的確に表現するものではなかった。
 マモルの本当の凄さというのは、つまり、どんな状況下でも確固たる理論に裏打ちされ、かつリスクとリターンを天秤に掛けつつ、打つべく時に打つことのできる豪胆さだった。
 「アレ、しかないと思う。」
 意図不明な言葉を、マモルが発した。
 「ああ、そうだな。メンバーはその事を知っているのか?」
 「いや、まだ話していない。リスクが大きくて、中々言い出しづらくって…」
 「馬鹿野郎。だから、こんな時になるんだろうが」
 伊佐間が小さく窘める。
 「おいおい、一体なんの話だ、マモル。」
 話を脇で聞いていた村田が、理解ができないといった風に、堪らず割って入ってきた。
 「ちゃんと、一から話せよ。俺は傍から見ておくから」
 そう言って、伊佐間はすぐに無線を切った。
 「お、おい!伊佐間、一体何の話だッ!…マモル、おい。お前たち、一体何を二人でコソコソ話している?」
 「どういうことなの?」
 イチハ隊全員が、マモルと伊佐間の言っていることが分からなかった。
 特に、ナカガワと村田は、自分たちが長年マモルと苦楽を共にした仲間であるにも関わらず、自分たちの知らない何かを伊佐間とマモルが共有しているという事実が、癪に障った。
 「みんな、すまない。俺はみんなに一つ隠し事をしている。」
 深呼吸をした後、マモルは落ち着いて、全員に理解できるようにゆっくりと話し始めた。
 「それは何のことかというと、ヴァルキリーのことなんだ。現状、今のヴァルキリーはあの黒い生物に対して、何一つ対抗する手立てがない。それは、すでに武装をすべて使い果たしたからだ」
 「…そうね。」
 「何もありません…」
 百合子と富田が合いの手を入れる。
 「ああ。だが、実はまだある」
 「まだ、ある?」
 村田が少し身体を乗りだす。
 「あるとは一体どういうことだ?」
 「まだヴァルキリーには、使用されていない武器があるんだ。本目標はその武器を使用して殲滅する」
 「ちょ、ちょっと待ってくれ!そんな話、俺たちは何にも聞いていないぞ。」
 「そうね、初耳だわ。」
 「僕も聞いたことがありません」
 「… ……。」
 全員が疑問を呈する中、ナカガワはただマモルの話を黙って聞いていた。
 「それに、だ。そういう武器があったとして、俺たちはその武器について何の訓練も受けちゃいない。」
 「ああ。その件については本当にすまない。だが、時間がない。今の現状では、この武器を使用する以外ないんだ。…この武装は、実はヴァルキリー開発当初から搭載されていたものだ。ただこれにはリスクがあった。一つは燃料だ。この武装はとてつもなくエネルギーを消費する。本武装使用後は燃料が無くなり、ヴァルキリーは間違いなく機能停止となるだろう。」
 「機能停止…。ダメじゃねぇか。」
 「ああ、ダメだ。だが、今のままでもダメだ。奴を倒すことができない。しかし、この武器を使うことができれば、勝算はある。」
 「負けるかもしれない可能性も、あるわけね」
 百合子が考え込みながら答える。
 「ある。ただし、俺の見込みでは、おそらく奴を倒せる。つまり、今俺たちが行おうとしていることは、所謂背水の陣って奴だ。」
 カメラ超しに見たマモルの表情には、悲壮感がまったくなかった。そしてその顔つきこそが、今までイチハ隊隊員がピンチの時、何度も信頼してきた顔だった。
 「よし、わかった。」
 ナカガワが腹を括ったように言った。
 「うん、いや、俺もお前を疑ってる訳じゃないけどな。ただその武器のスペックを知っておきたかっただけなんだよ、…うん」
 村田が決まり悪気に言う。
 ここまで来たら、百合子も富田も、マモルを信じようと思った。


 「よし、マモル。お前の言う通り、位置についたぞ。」
 目標の巨大UMAを眼下に、イチハ隊の乗る五機のヴァルキリーは、上空で一つの編隊を形成していた。ヴァルキリー5号機を中心に、右下に3号機、左下に4号機。5号機の後方に1号機が陣を取り、前方には2号機という布陣。
 「よし、いい感じだ。まだ俺も含め、みんな慣れていないからゆっくりやろう。」
 「何が始まるってんだよ、一体…」
 村田が心配そうな声で言う。
 そのうちに、ついに巨大UMAがイチハ隊の丁度、真下辺りまでたどり着いた。
 「いや!あのUMA、私たちの下まで来ちゃったわよ。」
 「何だか、顔が上向いてません…?」
 大きな化け物は、黒い煙を身体全体から吐き出しながら、ゆっくりと八ヶ岳山麓周辺をとりとめもなく歩いている。しかしその顔だけは、上空にいるイチハ隊の方をしっかりと向き、視界の中に捉えているのだった。
 「マモル、急いだ方が…、良くない?」
 百合子がUMAの不可解な行動に耐えかねて、声を掛ける。
 「よし。落ち着いていこう。次が最後の工程だ。さっき俺は、この武器はリスクがあると言った。一つが燃料だ。燃費が激しくて、この武装を行った後は燃料がスッカラカンになってしまうってこと。そして、もう一つ大きなリスクがあるんだ。それは何かっていうと、俺たち人間の力を使うということ」
 「人間の力…?」
 「操縦桿の真ん中辺りを見てくれ。」
 メンバーは、マモルの言うがままに操縦桿を確認する。
 「操縦桿のつなぎ目を開くと、隠しボタンがあるはずだ。」
 「どこ?よく分からないんだけど」
 「あ、何か、へこんだ所がありますね。これを、開ければいいんでしょうか…。うん?開けました。あ、なんか、エメラルドグリーンの綺麗なスイッチがありますよ。。百合子さん、よおく、探してみてください」
 富田が自身のところにあったスイッチを眺める。緑色の宝石のように輝く奇妙なスイッチ。よく観察してみると、緑色の中に沢山の毛細血管のようなものが見える。
 「あ、あったわ。何これ。すごく綺麗…」
 「見つけたぞ。」
 「こちらもオッケーだ。」
 順序を進めながらも、マモルの表情からは若干の緊張が見える。それも仕方がない。マモル自身がこの武器の使用は初めてだからだ。本武装についてはスペックとマニュアルの知識しかない。
 「よし、見つけたな。その綺麗なスイッチはバイオスイッチというんだ。俺たちはこれから、このバイオスイッチを押して一つになる。」
 「一つになる?どういう意味だ?」
 「つまり、ヴァルキリーを合体させる」
 マモルがさも事も無げに言う。
 「が、合体?」
 イチハ隊全員が同時に声をあげた。
 「ああ。俺たちの乗っているこのヴァルキリーが、合体して一つの兵器になるんだ。」
 「…ど、どういうこと?」
 「ロ、ロボット的な奴ですか!!!」
 富田がなぜか頬を高揚させて言う。
 「アンタ、そんなガキ臭いのが好きだったの?」
 百合子が細い目をして、富田をコクピット越しに眺めた。
 「残念ながら、ちょっと違うな。まぁ、俺もマニュアルの写真でしか見たことがないが、砲台のようなものだ。」
 「砲台?空を飛んでるこのヴァルキリーがか?」
 「えー、砲台ってなんなんですか。」
 富田がアフロをもたげて残念そうに言った。
 「文句をいうんじゃない。次のフェーズだよ。真面目にやるんだ。」
 イチハ隊のメンバーの気持ちが今一つ噛み合わない。
 やはりこの、鉄塊のヴァルキリーが合体するなんてことが、あまりにも荒唐無稽で想像できないのだろう。無理もない。先導しているマモルでさえも、見たことのないシロモノだ。ただし、今はこれしか方法がない。馬鹿な話だろうが、今はこの作戦にすがるしかないのだ。
 「ヴァルキリーの心臓部にはメインエンジンとは別に、通称『ミトコンドリア・フォトン』と呼ばれる機関がある。その機関は俺たち人間の力、つまり生命の力をエネルギーに変換することができる。そのインターフェイスがこのバイオスイッチだ。」
 「生命の力をエネルギーにだって?つまりそれって、俺たちの命を削るってことになるんじゃ…」
 「大丈夫だ、村田。無茶な使い方をしない限りは、命に別状はない。ただ体力を消耗することにはなるだろう」
 「中々勇気がいるわね…」
 百合子がそら恐ろし気に言う。
 「そして、それには俺たちの精神の力がとても重要なんだ。心を一つにして、バイオスイッチを押す。心を一つにして力の総量を一定以上増やさなければ、ミトコンドリア・フォトンは起動しないんだ。」
 「心を一つにって、そんな…。」
 小声で村田が独り言ちる。心を一つにするなんて、そんなまるで抽象的なこと今までやったことがない。一体どうすれば良いというのか。しかし、村田以外は皆、マモルの言うことを信じ瞼を閉じた。どうやらそれぞれの方法で、無心に祈ることにしたようだ。
 「お、おい、お前ら。本当に心を一つにするなんてこと…」
 「ごちゃごちゃ言っている暇はないわ。とりあえず、やってみるしかないのよ。」
 村田は、その祈るという現実離れした方法に、どうしても身が入らない。少し遥か下に潜む巨大UMAの行動を眺めてみる。
 巨大UMAは相も変わらず、のそのそと八ヶ岳山麓を移動しながらイチハ隊を見上げていたが、そこから、なぜかゆっくりと両腕を上空に持ち上げ始めた。村田はなんだか嫌な予感がした。
 「おい、お前ら。なんかおかしいぞ。おい」
 「…静かにして、村田。もう少しで、もう少しでなんだか分かりそうな気がしてるんだから…」
 手の平を合わせて百合子がお祈りのような形を作っている。他のメンバーも、富田は頭をグルグルと撫でる仕草、ナカガワはヨガを模すポーズ等、思い思いの形でまるで瞑想に耽っているようだった。
 そんな中、巨大UMAはこちらに向かって徐々に態勢を変化させていった。黒い煙の挙がる大きな両腕を、まさにピンポイントに、上空でホバリングしているイチハ隊に向けた。
 「おい。やっぱ、なんかおかしいぞ。この化け物。おい、お前ら!瞑想なんか止めやがれ!おい。奴の動きがなんかおかしい!」
 「もう少しなのよ…。大丈夫。地上からは、大分離れているから安全なはずよ。ホラ、あなたも早く…」
 百合子が答えるか答えないかの瞬間、ヴァルキリー4号機の機体に、真っ黒い巨大UMAの腕が、もの凄いスピードでぶつかってきた。信じられないことに、地上からイチハ隊がいるこの上空まで、腕がとてつもなく伸縮してきたのだった。その距離約50数メートル。ゴオンッという金属と金属がぶつかったような鈍い音を立てて、ヴァルキリー4号機は急速にバランスを失い急降下していった。
 「百合子ォー!!」
 イチハ隊全員の無線に、村田の声が響き渡る。
 それと同時に、落下していく4号機を追うようにして2号機が爆発的な速度で下降していく。
 「くそ!まずい!」
 その後をすぐに1号機、5号機、そして3号機が追随する。
 ヴァルキリー全機が相互にもつれ合いながら、きりもみ状態となって八ヶ岳山麓を落下していった。そしてその激しい速度の中、突然、メンバーの無線に声が鳴り響いた。
 「ほんと、クソよね。この怪物…」
 百合子の声だった。
 「百合子!大丈夫か」
 マモルの心配した声が言う。しかし、百合子は少しも意に介さない。
 「やっぱりやっつけないと、いけないわよね。私たちで」
 そのとき、4号機の機体全体を不思議な光が閃き始めていた。そして、それに呼応するかのように、他のヴァルキリーからも静電気のようなまばゆい光が突如発生する。
 「… …ああ、そうだな。やっつけないとな」
 マモルのその言葉を号令に、イチハ隊は一斉にバイオスイッチを押した。




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