榎本レン

文字数 2,050文字

榎本レンさんの執筆スペースです!

オットセイだってアーイドール♪

私、アーイドール♪

音 せいこは歌いながら、流れるような手つきで新聞を郵便受けに入れていく。

新聞配達のバイト――そう、アイドルにも下積み時代はあるのだ。

rsesaf_rsesaf

やあ、せいこちゃん精がでるねぇ。
ほんとだねぇ、おじいさん
おじいちゃん、おばあちゃん、おっはよー
この二人はせいこの近所に住んでいるゴブリンおじいちゃんと人間のおばあちゃんである。 

――ふと、せいこは二人の頭上が気になった。

rsesaf_rsesaf

あー! 危ない!!!

せいこがおじいちゃんとおばあちゃんのほうをみると近くの家の屋根から瓦が落ちてきていたのだ。


せいこは叫ぶ。 その叫びは超音波となり、瓦を弾き飛ばす。


rsesaf_rsesaf

せいこちゃんありがとう、危なかったねぇ おじいさん
ああ、ばあさん。やっぱり、この子は優しい子だねぇ。
せいこはほっと胸を撫で下ろした。オットセイであったことはこんなところでも役に立つのだ。

rsesaf_rsesaf

せいこちゃんはきっと凄いアイドルになれるじゃろう。

……うん!

せいこの歯切れの悪い返事。この間もアイドルオーディションに落ちた。

オットセイとして、人気を博し、挫折を味わったことのなかったせいこには苦い経験である。

rsesaf_rsesaf

*  *  *

rsesaf_rsesaf

ふぅ、全部配り終わったぁ! お腹空いた。そういえば、朝ごはんまだだったっけ……
よよよ……やめておくれよ
そうだよ おじいさんをそれ以上いじめないでおくれよ……
うるさいにゃ! いいからその魚を渡すにゃ!
(あれはゴブリンおじいちゃんとおばあちゃん……!)
待ちなさい! っていうか、猫人間!?

(まあ、私オットセイだけど)

うるさいにゃぞ! 人間! 黙らないとお前もこのニャインブレード(爪)で切り裂くにゃ!
やってみなさいよ! おじいちゃん達をこれ以上虐めたら許さない!
ニャインブレード!
きゃ?!(なんてスピード……!)
ふっふっふ、オレのスピードにおののいたかにゃ?

さらにお前を絶望させる情報をくれてやるにゃ


オレはあと4回、命を残している……

こっのおおお……アレ?!
超音波がでない――なぜ? とせいこは思った。

視界もぐるぐる回り出す。 

rsesaf_rsesaf

朝ごはん食べてないからだ……
ボンッ!

rsesaf_rsesaf

(お腹の空きすぎで変身解けちゃったああああああ!)
にゃんと?! お前も魔人能力で人間ににゃった口かにゃん?

ふふふ、だがこれでお前は無力!

ニャインブレード!

待て! せ、せいこちゃんを傷付けるなら、わしが相手じゃ。

オットセイじゃろうと、彼女は彼女じゃ!

さあ、おじいさんが時間を稼いでいる今のうちに逃げるよ!
(ゴブリンおじいちゃん、おばあちゃん……)

せいこは思った。自分はこんなにも支えてくれる人達を見捨てるのか。そして、思い出した。

……そう、オットセイのときだって、応援してくれるファンの皆がいたから頑張ってこれたのだ。

rsesaf_rsesaf

なら、ここで踏ん張って期待に応えるのがアイドルってもんでしょう……!
いつのまにか光に包まれていたせいこが変身していた。

rsesaf_rsesaf

まだ立つ(変身する)かにゃ。

だが、歪な変身だにゃ!  


せいこの手はオットセイのままだった。それも先ほどの攻撃で無残に切り裂かれ、使い物にならない!

だが、その衣装には、せいこの心境の変化を表すようにスイートピーがあしらわれていた。

rsesaf_rsesaf

腕は潰した……丸腰ではどうしようもないにゃ!

とどめにゃん!

いやまだいける!
猫魔人が距離を詰めるのと同じように、せいこも駆け出し跳躍した!

rsesaf_rsesaf

猫魔人が距離を詰めるのと同じように、せいこも駆け出し跳躍した!

スイートピーがせいこの衣装から地面に舞い落ちる。


目に映るのは。

rsesaf_rsesaf

(?! オットセイの尻尾! 歪な変身を利用したのかにゃ……!

空中からのカウンター!近すぎて回避、防御、いやどれも間に合わないにゃ!)

ビューティテイル……アイドルアターーーック!
そこまでです!
(まだにゃ、尻尾だけならダメージなどたかが……)
アイドル魂を舐めるなあああああ!

(…………?!)

尻尾受け止める直前、せいこの変身が完全に解けた。

メスのオットセイの体重はおおよそ50kg。

だが、せいこの体重はオスのオットセイと同じ規格外の250kg!

その体重の乗った尻尾が、空中から叩きつけられる。

rsesaf_rsesaf

ぎにゃああああああああああああああ?!
猫魔人はアスファルトにめり込み、そのまま気絶した! 

気絶してしまえば命のストックは無意味である。

rsesaf_rsesaf

*  *  *

rsesaf_rsesaf

私はアスファルトに寝転がり、空をみる。

rsesaf_rsesaf

(私は理想のアイドルに近づけたかな。

……ふふ愚問か、期待してくれる人達のために頑張る、それはオットセイでも人間でも変わらない。

皆の期待に応えているときが私にとって、至福の時間であり、私の信じるアイドルだから。

…………うん、また頑張ってアイドルをやろう)


心配そうな顔をしておばあちゃんとゴブリンおじいちゃんが私のほうへ近づいてくる。

それをみて、私は手(前足)を振った。


―――ふと、視界に私の衣装から落ちたスイートピーが映った。


私は密かに微笑む。

だって、その花は今の私の心境に相応しかったから。



rsesaf_rsesaf

スイートピー、花言葉は『至福の時間』。



おしまい。


rsesaf_rsesaf

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)
※これは自由参加コラボです。誰でも書き込むことができます。

※コラボに参加するためにはログインが必要です。ログイン後にセリフを投稿できます。

登場人物紹介

名前:いつき

性別:オス

年齢:それなりに行ってる


能力

・ニャインライブズ(その1)

猫に9つの命があるという逸話があると知ったいつきが最初の死の直前に手に入れた能力。9九回まで死ねる(いつきは何となくそれを察している)。現在は5回目。

・ニャイトオブニャイツ(その2)

今生で世話になっている主人より自分の子供を守ってくれと言われ、その言いつけを守るために発現した。

2足歩行ができ、前足で物を持て、人の言葉をしゃべれるようになった。

ただそれだけである。


性格

5回目の生を謳歌する猫。今生では子猫の時に捨てられ、次の人生(猫生)に思いを馳せていたところで今の主人に拾われた。

その恩を返すべく、主人の子供を守って行こう、と思い、何度か前の生で読み聞かせられた西洋の騎士のようになろうと魔人(魔猫)能力に目覚めた。

最初こそ気味悪がられたが、その紳士的な性格から周囲の人々に受け入れられている。

主人(の子)を守るべく、脇差の模造刀を背負っている。

「そこ、能力名が騎士なのに刀ってツッコむニャ」



作者:knavery

音 せいこ



5歳 ♀


希望崎水族館で飼育されていた、人気NO.1オットセイのせいこちゃん。

せいこちゃんは歌が上手く、芸達者。子供から大人まで幅広く人気があります。


そんなせいこちゃんはある日、ふと観客の持つスマートフォンに映っていたとある大物アイドルをみて衝撃を受けました。


可愛らしさ、清楚さ、ファンを熱狂させる姿、その全てがせいこちゃんには輝いてみえたからです。


彼女はそのアイドルに憧れました。そして、いつのころからか人に変身できるようになったのです。


人の姿となったことで憧れはやがて焦燥へ変わり、せいこちゃんは広い舞台を目指したいと思うようになりました。

そうしてせいこちゃんは水族館から脱走したのです。

 

人と成ったせいこちゃんの憧れのアイドル活動が始まります!



能力:『オットセイだってアイドル!』


単純明快。

人間のアイドルに憧れたせいこちゃんが人間に変身しちゃうのです。

服装もせいこちゃんの望んだ通りになります。



オットセイなので超音波で機材を破壊しちゃったりするけど、ちょっとぐらいお茶目のほうが人気が出るから大丈夫、せいこちゃんは詳しいのです!




オットセイアイコン:写真AC様

女の子アイコン:トークメーカー公式


作者:榎本レン

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色