第1話

文字数 817文字

 地元の焼鳥屋のカウンターで、毎年、春の到来を感じる時がある。それは、季節メニューの白板に「ばんけの天ぷら」が登場した時だ。
 「ばんけ」とは、山形県庄内地方で「ふきのとう」のことで、当地に住んで初めて知った。調べたところでは、ふきのとうはキク科フキ属の多年草で、雪解けの頃、春一番に芽を出すふきの花の若い(つぼみ)のことを指す。日本原産の山菜の一つで全国の山野に自生している。
 この「ばんけの天ぷら」がまた何とも美味しいのだ。ばんけ独特の香りと苦味が「んだ、春が来たの」と感じさせてくれる。甘味は全くなく、このクセと苦味が塩に合う。クセと苦味と塩とくれば合わせるのは日本酒だ。この組み合わせは絶品だ。
 「ばんけは誰がどこで採ってもいいのか?」
と焼鳥屋の大将に尋ねたところ、
 「んだ、道路脇や川の堤防の雪の消え間からポコポコと顔を出すので誰が採ってもいい」
とのことだった。
 以前、車で国道47号線を新庄に向かう途中、普段は全く人が歩くことのない山間部で、路肩の残雪の壁の脇を腰に籠を(くく)り付けたお婆さんが歩いていて、慌てたことがあった。大将に話すと、それはばんけ採りをしていたのだろうということだった。
 採ったばんけは、農協に納めるといい値で買い取ってくれるそうだ。ひと季節に20~30万円くらい稼ぐ人もいるらしい。
 「庄内は春になると、道端や土手に100円玉が落ちているみたいでいいですねえ。」
と言ったことろ、大将はしばらく考えて、
 「ん~、100円玉は高過ぎるな。50円玉くらいかの。」
との返事だった。値段の確固たる根拠はなさそうだったが、どちらにしろ、庄内は豊かな山の幸にも恵まれていることには変わりはないと思った。

 さて写真は、2018年3月18日、陸羽西線沿線で撮影場所を探している時に偶然見つけたばんけだ。

 花((ほう))が開いてしまった感じがするが、一面の茶色の中に、ばんけの若い黄緑が新鮮に映えて見えた。
 んだんだ!!
(2022年3月)
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