二人の誕生日 3終わり
文字数 2,026文字
地の神殿が近いからか、旅人もちらほら通りに見える。
イネスがいなくても、本を読むだけでもいいじゃないか。
荷物をカバンにしまい込み、立ち上がって大きく伸びをする。
フードをかぶり、人の切れ間を見てやぶから抜け出し通りにピョンと降りた。
着地するとやっぱり足が痛い。
「歩きすぎだな、もっと休めば良かった。」
少し足を引きずってると、後ろから薪を積んだ馬車が来て追い越しざまに声をかけられた。
顔も見ずに、神殿へ行くのなら後ろに乗っていけという。
ぶっきらぼうで無口な老人だが、リリスは深々と頭を下げて世話になることにした。
老人は神殿に薪を収めに行くらしく、山道を下るとそのまま賑やかな街を過ぎて神殿へと続く登り道を上り始める。
リリスも随分ラクに行き着くことが出来て、日が沈む前に着くことが出来た。
「ありがとうございました!凄く助かりました!」
老人は、無言で手を上げて参拝客の多い中を裏手へ進む。
リリスも痛い足をかばいながら、神殿の中に入り祭壇の横に控える神官見習いの少年に頭を下げた。
「こんにちは、お久しぶりです。」
少年は退屈していたのか、ぼんやり顔を上げ、フードの中を覗き込んでパッと明るい顔をする。
「いらっしゃいませ!リリス様、やっぱりいらしたんですね!」
「やっぱり?ですか?」
「ええ!だってセレス様がね。
うふふ、さあお疲れでしょう、あれ?足が痛いんですか?痛めました?」
「ちょっと、無理しました。でも少し休めば大丈夫です。」
「それは大変、薬湯を用意させましょう。さあさあ、奥へどうぞ。」
苦笑いで、神殿の奥まで案内されて入って行く。
回廊を抜けて中庭の渡り廊下を歩いていると、館の方からバタバタ派手な足音を響かせて白装束の少年が一目散に走ってきた。
「リリーーーッ!!」
「え?ええ?」
ドーンとぶつかるように抱きしめられ、勢いで身体が浮いた。
いるはずのない人物が、どうしてここにいるのか不思議でたまらない。
イネスはセレスに次ぐ二番巫子、城へ行って当然なのだ。
「お城に行かれなかったんですか?てっきりお留守だと……」
「兄様がお前が来るよと仰ったから、三の巫子のアデルと変わったんだ。
だいたいなんであんなガキの誕生祝いなんかにわざわざ行かなきゃいけないんだ、俺だって誕生日なんかだいたいの日なのに。」
エヘンとサファイアが後ろから咳払いする。
王子をあんなガキ呼ばわりするのはイネスくらいの物だ。
「お疲れでしょう、さあ荷物をお持ちしましょう。
イネス様、リリス様は足を痛めておいでですよ。
抱きつくのはほどほどになさいませ。」
「なにっ?足だと?それに何だ、目の下真っ黒だぞ。お前すっごく顔色悪いじゃないか!
とにかく風呂に行こう、暖まるときっと良くなる。ほら、俺が負ぶってやる。」
「ええっ!大丈夫です!ほんとに、本当に、本当に大丈夫ですから。」
遠慮するリリスからサファイアが荷物を取り、背中を向けて腰を落としたイネスにドンと彼の身体を押す。
「イネス様はああ見えて頑丈ですから、あなた一人くらい大丈夫ですよ。
ほら、観念なさい。」
クスクス笑うサファイアが、リリスのフード付きの外套を脱がせた。
リリスがどうしようと迷いながら彼の身体に負ぶさる。
イネスはガッシリと彼の身体を保持してひょいと立ち上がり、小走りで館の方へ走り出した。
「何だ、お前軽いんだな。よし、今夜は俺がいいと言うまで食え。いいな!
俺はこの誕生祝いって言葉聞くと妙に腹が立つんだ。
何が誕生日だ。家族がいるくせに、その上まだ人にまで祝って貰おうってのか?
俺だって誕生日が欲しい!欲しいけど、手に入らない。腹が立つ!
最悪の日だと思ったのに、お前が来てとってもいい日になった。
いっぱい話して、いっぱい遊ぼう!」
「イネス様、お勉強もお忘れ無く。」
「サファイアはうるさいなあ、もちろん勉強は言うまでもないぞ!
そうだ、俺たちも俺たちの誕生祝いしよう!
そっか、そうしよう!
良く来たリリ!誕生日おめでとう!」
よほど悶々としていたのか、リリスを背負ったまま一息に胸の中の重い固まりを吐き出して、イネスが明るく歌を歌い出す。
彼も、生まれてすぐに親から離されここへ連れてこられた巫子だ。
それが通例とは言え、その過程に何があったのか一切知らない。
ヴァシュラムも教えてくれない。
彼はアルビノ、見かけは少し普通と違う。
もしかしたら、彼もリリスと同じ運命をたどったかもしれないのだ。
リリスはイネスの背中で、彼の白い髪を見つめて目を閉じた。
ああ……そうなんだ。
自分の気持ちを、すべてイネスが代弁してくれた。
そんな気がする。
こんな気持ち、自分だけじゃなかった。そう思えば救われる。
僕だって、誕生日が欲しい!
「誕生祝い、いいですね。
ええ、ええ!とってもステキです!
イネス様、お誕生日おめでとうございます!」
一緒になって誕生日の歌を歌い始める。
いつもは静かな神殿の敷地の中、二人の声は高らかに朗らかに、いつまでも誕生を祝う歌が響き渡った。
それは、自分たちのために。
イネスがいなくても、本を読むだけでもいいじゃないか。
荷物をカバンにしまい込み、立ち上がって大きく伸びをする。
フードをかぶり、人の切れ間を見てやぶから抜け出し通りにピョンと降りた。
着地するとやっぱり足が痛い。
「歩きすぎだな、もっと休めば良かった。」
少し足を引きずってると、後ろから薪を積んだ馬車が来て追い越しざまに声をかけられた。
顔も見ずに、神殿へ行くのなら後ろに乗っていけという。
ぶっきらぼうで無口な老人だが、リリスは深々と頭を下げて世話になることにした。
老人は神殿に薪を収めに行くらしく、山道を下るとそのまま賑やかな街を過ぎて神殿へと続く登り道を上り始める。
リリスも随分ラクに行き着くことが出来て、日が沈む前に着くことが出来た。
「ありがとうございました!凄く助かりました!」
老人は、無言で手を上げて参拝客の多い中を裏手へ進む。
リリスも痛い足をかばいながら、神殿の中に入り祭壇の横に控える神官見習いの少年に頭を下げた。
「こんにちは、お久しぶりです。」
少年は退屈していたのか、ぼんやり顔を上げ、フードの中を覗き込んでパッと明るい顔をする。
「いらっしゃいませ!リリス様、やっぱりいらしたんですね!」
「やっぱり?ですか?」
「ええ!だってセレス様がね。
うふふ、さあお疲れでしょう、あれ?足が痛いんですか?痛めました?」
「ちょっと、無理しました。でも少し休めば大丈夫です。」
「それは大変、薬湯を用意させましょう。さあさあ、奥へどうぞ。」
苦笑いで、神殿の奥まで案内されて入って行く。
回廊を抜けて中庭の渡り廊下を歩いていると、館の方からバタバタ派手な足音を響かせて白装束の少年が一目散に走ってきた。
「リリーーーッ!!」
「え?ええ?」
ドーンとぶつかるように抱きしめられ、勢いで身体が浮いた。
いるはずのない人物が、どうしてここにいるのか不思議でたまらない。
イネスはセレスに次ぐ二番巫子、城へ行って当然なのだ。
「お城に行かれなかったんですか?てっきりお留守だと……」
「兄様がお前が来るよと仰ったから、三の巫子のアデルと変わったんだ。
だいたいなんであんなガキの誕生祝いなんかにわざわざ行かなきゃいけないんだ、俺だって誕生日なんかだいたいの日なのに。」
エヘンとサファイアが後ろから咳払いする。
王子をあんなガキ呼ばわりするのはイネスくらいの物だ。
「お疲れでしょう、さあ荷物をお持ちしましょう。
イネス様、リリス様は足を痛めておいでですよ。
抱きつくのはほどほどになさいませ。」
「なにっ?足だと?それに何だ、目の下真っ黒だぞ。お前すっごく顔色悪いじゃないか!
とにかく風呂に行こう、暖まるときっと良くなる。ほら、俺が負ぶってやる。」
「ええっ!大丈夫です!ほんとに、本当に、本当に大丈夫ですから。」
遠慮するリリスからサファイアが荷物を取り、背中を向けて腰を落としたイネスにドンと彼の身体を押す。
「イネス様はああ見えて頑丈ですから、あなた一人くらい大丈夫ですよ。
ほら、観念なさい。」
クスクス笑うサファイアが、リリスのフード付きの外套を脱がせた。
リリスがどうしようと迷いながら彼の身体に負ぶさる。
イネスはガッシリと彼の身体を保持してひょいと立ち上がり、小走りで館の方へ走り出した。
「何だ、お前軽いんだな。よし、今夜は俺がいいと言うまで食え。いいな!
俺はこの誕生祝いって言葉聞くと妙に腹が立つんだ。
何が誕生日だ。家族がいるくせに、その上まだ人にまで祝って貰おうってのか?
俺だって誕生日が欲しい!欲しいけど、手に入らない。腹が立つ!
最悪の日だと思ったのに、お前が来てとってもいい日になった。
いっぱい話して、いっぱい遊ぼう!」
「イネス様、お勉強もお忘れ無く。」
「サファイアはうるさいなあ、もちろん勉強は言うまでもないぞ!
そうだ、俺たちも俺たちの誕生祝いしよう!
そっか、そうしよう!
良く来たリリ!誕生日おめでとう!」
よほど悶々としていたのか、リリスを背負ったまま一息に胸の中の重い固まりを吐き出して、イネスが明るく歌を歌い出す。
彼も、生まれてすぐに親から離されここへ連れてこられた巫子だ。
それが通例とは言え、その過程に何があったのか一切知らない。
ヴァシュラムも教えてくれない。
彼はアルビノ、見かけは少し普通と違う。
もしかしたら、彼もリリスと同じ運命をたどったかもしれないのだ。
リリスはイネスの背中で、彼の白い髪を見つめて目を閉じた。
ああ……そうなんだ。
自分の気持ちを、すべてイネスが代弁してくれた。
そんな気がする。
こんな気持ち、自分だけじゃなかった。そう思えば救われる。
僕だって、誕生日が欲しい!
「誕生祝い、いいですね。
ええ、ええ!とってもステキです!
イネス様、お誕生日おめでとうございます!」
一緒になって誕生日の歌を歌い始める。
いつもは静かな神殿の敷地の中、二人の声は高らかに朗らかに、いつまでも誕生を祝う歌が響き渡った。
それは、自分たちのために。