二人の誕生日 2

文字数 1,736文字

朝日が昇り、白んだ空に上がった日のまぶしさにハッと顔を上げる。
一体どのくらい過ぎたのか、気がつくと歩いているのにしばらく意識がなかった。
寝ながら歩いたのか、良く転ばなかったと自分に感心して笑った。
早朝だと言うのに、旅人が楽しくお喋りしながらこちらに歩いてくるのが見える。
慌ててフードをかぶりなおし、顔が見えないよううつむいて無言で歩いてやりすごした。

「……ああ、見られて良かったねえ。
巫子様が乗ったグルクの立派なこと、俺も一度乗ってみたいなあ。
気持ちよさそうじゃないか。」

「馬鹿だねえ、お前さんがお城に招待されることなんざあるわけないさ。」

夫婦だろうか、地の神殿への参拝帰りなのだろう。
土産物らしい物を詰め込んだ袋を背負い、楽しそうだ。
通り過ぎたあと、ふと立ち止まった。

巫子が乗ったグルク?城に招待?
……そうか、イネスも巫子だ。
きっと城に招待されているに違いない。

なんだ……そうか、行っても会えるはず無いじゃないか。
なんて馬鹿なんだろう、会いたいってことばかり考えていた。


大きな脱力感に襲われた。
どっと疲れが鉛のように押し寄せ、足が痛くて膝がガクガク震え、力が入らない。
よろめきながら、隠れるようにやぶの中でツタに覆われた倒木を見つけて腰を下ろし、身体を横たえた。
涙がポロポロ流れ、自分は馬鹿だと何度も繰り返す。

疲れた、もうこのまま死んでしまおうか……
どうせ誰も自分のことなんか忘れてしまう。
こんな気味の悪い子供なんかみんな好きじゃない、本当はあの家にいちゃいけないんだ。

目を閉じて、自暴自棄なことを繰り返し散々泣いて、ウトウトしているうちに眠り込んでしまった。


やがてどのくらい時間が過ぎたのか、目が覚めた時、日はすでに高く木漏れ日が当たる場所がぽかぽかと気持ちよく照らしていた。
大きくため息をついてフードを取り、乾いた涙を拭いて髪をかき上げ身を起こす。
這っている虫を払い、ハアとため息を付いた。

「ほんと、何やってんだろうね、僕は。」

精霊が、膝をツンツン叩いて指を指す。
立ち上がってコートを脱いでパンパン払い、ついていくと小さな水の流れがあった。
辿っていくと、岩から清水が湧いている。
そこから水をすくい取り、手を洗って顔を洗う。
ゴクゴク水を飲み、空っぽになっていた水筒に水を入れて、手を合わせて水源にお礼をした。

お腹がグーと鳴り、横の岩に座ってカバンから残ったパンのかけらを取りだし食べようかと探る。
あと少しあったはずだ。
見つけてパンを取り、かじりながらカバンの中から香る独特の匂いに気がついた。

あれ?干し肉の匂いがする……

おかしい。燻して干した、干し肉なんて贅沢だからといつも入れないのに。
ゴソゴソ入れていたノートを取り出し探ると、底に包みが入っていた。
開くと干し肉がひとかたまり、自分一人が食うには多いくらい。
それと、木の実が数十粒と乾燥したフルーツがいくつかに、金貨が2枚。

こんなに沢山、誰が入れたんだろう……

セフィーリアは留守だったし、親しい弟子も母屋に出てきていなかった。
メイドはまだ来ていなかったし、シェフが来るのは昼前だ。
いたのは、支度するリリスを睨んでいた不機嫌そうなベレナだけ……

まさか……!

彼女が旅の時、何かしてくれたことはない。
いつもセフィーリアが心配して、ほとんど使うことのないお金をくれるだけだ。
でも、今回はセフィーリアがいない時を狙って旅に出た。
もう、今は何も聞きたくなかったから。

干し肉を握り、裂いて口に入れる。
固くて何度も噛んでいるうちに味が出てくる。
塩気が効いていて、疲れが取れるようだ。

「うふふ……ふふふふ…………
くすくす、クックック…………………」

なんだかおかしくてたまらない。

そう言えば出ようとした時、自室の窓はきちんと閉めたか確かめて来いと言われて、カバンを置いて見に行ったっけ。
あの怒りんぼのおばさんが、どんな顔して入れてくれたんだろう。
気をつけてのひと言も言わないのに、そう言えば、旅立ちの時にいる時はいつも見送ってくれる。
あれが、あの人の精一杯の優しさなんだろうか。

もしかしたら、地の神殿へ行くのもとっくにバレているのかもしれないな。

クスクス笑いながらフルーツと木の実を何個か食べ、干し肉を噛んでるうちに少し元気が出てきた。
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