三月二十三日 晴れ(開宴一週前)②
文字数 1,572文字
半信半疑ながらも、そのメカニズムというか流され方についてはわかったつもり。だが、逆に謎は深まる。
「でも、何でまた・・・」
こんな大がかりなことを一人で、しかも三十日の宴とやらを呼びかけるにしたって、なぜ斯様な手法をとるのか、だいたい宴っていったい??
質問を遮るように青年は急に大声で、
「いけね、そろそろ流さなきゃ」
ちょっと考えて、茜はケータイを構えてみる。
「記念に撮っていいですか?」
「いやぁ、撮影されちゃかなわんな」
「じゃ、手伝います。その代わりあとでお兄さんのこと、撮らせて」
どうやらこの青年、風貌は悪くなさそうである。
「って、何で?」
「俳優で誰かに似てるって言われませんか?」
「さぁ、誰だろ?」
「さっきの質問に答えてくれたら教えます」
紙を丸めて、ボトルに入れて、フタをして、という作業がありそうだったが、これを現場でやっていると潮時に合わなくなる、つまり、決まった時間帯に一定数を一定の距離に到達させるには、予め仕込んでおく必要があるんだとか。
「ま、ここだと川幅が狭いから、割と主流に乗せやすいんだ。広いとこだと水際に戻ってきちゃう。だからって橋の真ん中からポイポイやる訳にもいかないしね」
他にも裏話はいろいろありそうだが、そんな労苦は全く感じさせない。青年は実に快活に、ボトルの遠投に興じている。茜は見よう見まねで、できるだけ遠くに放り投げようとするが、時に流れに乗せそこなう分が出てくる。
「ところで、お嬢さん、名前は?」
「あ、キ、キバタ、アカネって言います」
「気張った?」
「お城の端で、キバタっ!」
ちょっとカチンと来て放った一投は、思いがけず遠くに飛んだ。
「そうそう、その調子」
「お兄さんは?」
「ネットの検索とか得意?」
「あんまし・・・」
「ま、別に検索してもらっても構わないけど、椎葉新太って言います」
「じゃ、シンタさんて呼ばせてもらいます」
そう来たか、という顔をしつつも、彼はすかさず切り返す。
「それにしても、お城の端って。確かジョウハナって読む地名はあったけど、キバタとはね。キバッタさんじゃ悪いし。何て呼ぼうかね?」
「なら、ハナちゃんでもハナさんでも」
「ま、そろそろ花見シーズンだしね。ハナさんにしとくか」
本当なら名前にちゃん付けでも良かったのだが、高校生になろうとしている折り、それじゃ進歩がないし、親と同じように呼び捨てされるのもどうかと思う。相手はちょっとイイ感じのお兄さんである。どうせなら気分よく呼ばれたい。少々古風な印象もあるが、バタさんと呼ばれるよりはずっと、いい。
誰に似てようが別に構わないような素振りだったが、二言三言交わすうちに質問の核心に迫る答えが返ってくるようになった。実験用のボトルは研究室の倉庫に潜んでいたのを失敬したものであること、環境省がどこかの川と海とでこれと同じ手法で漂流漂着実験するくらいだから、今回だってご法度には当たらないであろうこと、そして、
「ハナさんにとっちゃまだ何年も先の話だろうけど、大学の次に大学院てのに進むケースもある。これでもその院生なもんでね。こういう実験とかも一応学業になる訳。でもね」
「でも?」
「どうせなら何か役に立つ、いや楽しい実験にしたいなって考えた。その一つがメッセージボトル」
「はぁ、あとはもしかして、来週の・・・」
「あ、まぁね。今は内緒だけど」
投げ込みは終盤に近づいていた。今日のところはこれが終わったら解散か。茜はちょっと物憂げな感じになってくる。
「シンタさん、その来週のって、また手伝わせてもらってもいい、ですか?」
新太はしばし考えてから、また一つ遠投。重量がある訳ではないので、どこか頼りなく、宙を泳ぐ感じがするのは毎度のことだが、この一本は滞空時間が長く感じられた。
「でも、何でまた・・・」
こんな大がかりなことを一人で、しかも三十日の宴とやらを呼びかけるにしたって、なぜ斯様な手法をとるのか、だいたい宴っていったい??
質問を遮るように青年は急に大声で、
「いけね、そろそろ流さなきゃ」
ちょっと考えて、茜はケータイを構えてみる。
「記念に撮っていいですか?」
「いやぁ、撮影されちゃかなわんな」
「じゃ、手伝います。その代わりあとでお兄さんのこと、撮らせて」
どうやらこの青年、風貌は悪くなさそうである。
「って、何で?」
「俳優で誰かに似てるって言われませんか?」
「さぁ、誰だろ?」
「さっきの質問に答えてくれたら教えます」
紙を丸めて、ボトルに入れて、フタをして、という作業がありそうだったが、これを現場でやっていると潮時に合わなくなる、つまり、決まった時間帯に一定数を一定の距離に到達させるには、予め仕込んでおく必要があるんだとか。
「ま、ここだと川幅が狭いから、割と主流に乗せやすいんだ。広いとこだと水際に戻ってきちゃう。だからって橋の真ん中からポイポイやる訳にもいかないしね」
他にも裏話はいろいろありそうだが、そんな労苦は全く感じさせない。青年は実に快活に、ボトルの遠投に興じている。茜は見よう見まねで、できるだけ遠くに放り投げようとするが、時に流れに乗せそこなう分が出てくる。
「ところで、お嬢さん、名前は?」
「あ、キ、キバタ、アカネって言います」
「気張った?」
「お城の端で、キバタっ!」
ちょっとカチンと来て放った一投は、思いがけず遠くに飛んだ。
「そうそう、その調子」
「お兄さんは?」
「ネットの検索とか得意?」
「あんまし・・・」
「ま、別に検索してもらっても構わないけど、椎葉新太って言います」
「じゃ、シンタさんて呼ばせてもらいます」
そう来たか、という顔をしつつも、彼はすかさず切り返す。
「それにしても、お城の端って。確かジョウハナって読む地名はあったけど、キバタとはね。キバッタさんじゃ悪いし。何て呼ぼうかね?」
「なら、ハナちゃんでもハナさんでも」
「ま、そろそろ花見シーズンだしね。ハナさんにしとくか」
本当なら名前にちゃん付けでも良かったのだが、高校生になろうとしている折り、それじゃ進歩がないし、親と同じように呼び捨てされるのもどうかと思う。相手はちょっとイイ感じのお兄さんである。どうせなら気分よく呼ばれたい。少々古風な印象もあるが、バタさんと呼ばれるよりはずっと、いい。
誰に似てようが別に構わないような素振りだったが、二言三言交わすうちに質問の核心に迫る答えが返ってくるようになった。実験用のボトルは研究室の倉庫に潜んでいたのを失敬したものであること、環境省がどこかの川と海とでこれと同じ手法で漂流漂着実験するくらいだから、今回だってご法度には当たらないであろうこと、そして、
「ハナさんにとっちゃまだ何年も先の話だろうけど、大学の次に大学院てのに進むケースもある。これでもその院生なもんでね。こういう実験とかも一応学業になる訳。でもね」
「でも?」
「どうせなら何か役に立つ、いや楽しい実験にしたいなって考えた。その一つがメッセージボトル」
「はぁ、あとはもしかして、来週の・・・」
「あ、まぁね。今は内緒だけど」
投げ込みは終盤に近づいていた。今日のところはこれが終わったら解散か。茜はちょっと物憂げな感じになってくる。
「シンタさん、その来週のって、また手伝わせてもらってもいい、ですか?」
新太はしばし考えてから、また一つ遠投。重量がある訳ではないので、どこか頼りなく、宙を泳ぐ感じがするのは毎度のことだが、この一本は滞空時間が長く感じられた。