お仕事

文字数 639文字

 夜はまだ冷える、三月の終わりの空を見上げると口をすぼめて息を吐きだした。
 時間はまだあるけれどあと一つ仕事をこなさなければならない。
 セルフうどん店で温玉うどんの食券を自販機で購入して、店員に渡して熱々のうどんをもらい、トレイにのせて窓際の席に座って大きなガラスの外はライトをつけた車列が見える。この後の仕事のためにねぎは好きだが敢えて入れない。凪咲(なぎさ)は弾力のあるうどんを半分ほど食べたところで、スマホが鳴った。家から、それも母のスマホ……。出たくないけれど出ないと後でもっと面倒くさいことになるのはわかっている。
「はい」
「なあ、お腹減ったけど冷蔵庫空っぽ。いつ帰るの?」
「これからまだ仕事あるねんけど」
「しょうがないわ、コンビニ行ってくるけど、もうお金ないねん。二万ほどある?」
 また、カネの無心だ。いつもこうして毟り取られる、いつまでこの地獄が続くのだろうか。
 次の仕事の時間まで30分を切った。待ち合わせのホテルは大きな窓から見えている。歩いて5分ほどだが、お客さんを待たせるわけにはいかないので、母からの電話は切り上げる。
「わかった、二万ね。明日の昼には帰るから。もう仕事なんで電源切るしな」
 凪咲はトレイを店員に渡すと、店を出ていつものラブホテルに歩いていく。通り過ぎる車のヘッドライトが目に痛い。痛いのは目だけじゃない、心が切り刻まれるように自分の体を通りすぎる男たちはすべてお客さんであり、お金をそこから得る。それだけじゃ足りずに昼の仕事もしている。

 
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