第4話
文字数 3,518文字
背中痛い…歩くのがやっとだ。今までの男たちの覚悟を尊敬する。ナツからもらった鎮痛剤は寝るときにでも飲もう。
「若頭。おかえりなさいませ。」
「慶か。」
「ナツから連絡を事前にもらっていたので、そろそろお帰りかと思いまして。」
「ああ、ありがとう。」
「今日はもう休まれてください。」
「すまないな。」
「これから、一か月ほど無理はなさらないようにしてください。私たちが若頭の自室に入ることになりますが、よろしいですか。」
「ああ。構わない。」
「あと、姉さま、自室ではちゃんと浴衣を着てくださいね。いつもみたいに帯をしないなんてことしないでくださいね…。」
「なぜだ。帯がないほうが楽なのだが。」
珍しく姉さまと呼んでくる慶。最近は専ら若頭と呼んでいたのに。
「どうしてもです。これから毎日異性が姉さまの部屋に入るんだ、たまには俺の言うこと聞いてください。」
食い気味に言われてしまえばうなずくしかあるまい。
「むぅ。わかった」
自室に戻り、浴衣に着替える。布がこすれるだけで痛い。なんとか着替えを済ませ、布団に腰を下ろす…。
コンコン
「姉さま、慶です。入っても?」
「ああ、いいぞ。」
「どうですか。具合は?」
「死にそうだ…。お前もこんなのに耐えていたのだな。」
「俺は大きなものを入れてはいないからな。姉さまより比較的ましだったかもしれない。」
「ああ、そういえばロレンツォは?」
「ええ、明日入国の予定です。ご安心を。入国次第、こちらへ来ていただくことになっています。」
よかった。これで話が進められる。
「そうか…」
そうこう話をしているうちに慶に後ろから浴衣を寛げられ、上半身があらわになっていた。
「姉さま、綺麗な蓮の花ですね。母様の好きな花を…?」
「ああ、そうだ。母様に見守っていてほしくてな。」
「そうですか」と慶は小さくこぼした。
「姉さま、寝転がってください。俺が上に乗り、押さえます。少し重いですが、我慢してください。」
そう言いながら、慶が消毒のための布を背中に落としていく。と同時に施術の時とは違った痛みが襲う。
「っっ!!!んっ、ぐっ、、、はぁ、、、。」
「姉さま、頑張って。もう少し痛みます。」
「あぁっ…!いっつぅ‥‥。んんっ」
慶がタオルを口にかませてくれる。それがなければ、唇から流血していただろう。
手入れが終わるころには、力がもうなくなってしまっており、慶にされるがままだった。
「姉さま、終わりましたよ。鎮痛剤飲めますか?」
「あ、ああ。なんとかな…。」
「よく眠ってくださいね。」
慶が自室から出て行ったのを確認し、鎮痛剤が効いてきたのか、誘われるかのように眠りについた。
慶side
「まずい…まずいまずいまずい…。あれはまずい。」
正直、自分以外の異性を入れたくないぐらいには姉のことが大好きである。それは自負している。しすこん?とやらといわれても否定はしない。なんなら、自分が姉さまを抱きたい。
だが、俺は婿候補ではない、次期若頭候補だ。ずっとそばにいれる。
だけど婿候補の皆様は、姉さまの裸体を見たことはない。本来であれば見ることも許されぬのだが、仕方ない。
けれどあの姉さまをみて、何もないということはない…。男女が同じ部屋に居るのだ。だから、一万歩譲って純潔だけは、としたのだ…。ああ、姉さまは俺の姉さまだったのに…姉離れをしなければならないのか…。なんということだ。
はぁぁぁぁぁ、辛い。ため息交じりに仕事に戻るのだった。
姉さま、お願いだから男をあおることだけはしないでくれよ。
零side
昼頃、布がこすれる痛みで目が覚める。これは、少しばかりスーツはしんどいな。
なんとか、スーツに着替え、皆の元へ向かう。
すると遠くから、久しく聞いていないかった声を聞く。
「レイ!会いたかった!元気だったかい?」
猪のように突進してくるレオリーを慶がすかさず止めに入る。
「レオリー様、ようこそお越しくださいました。お部屋へご案内いたします」
「ケイ!レイとの抱擁をさせてくれよ!!」
「駄目です。今零様は若頭なのです。昔のようにはなさらないでください。」
「つれないなー。ケイは。」
「姉さまは昨日墨を入れたばかりなんです、気遣ってください。」
「おぉ、それは仕方ない…」
慶とレオリーがひそかに、会話をしていたが、私には聞こえなかった。
「はは、レオリー、私もあえて嬉しいよ。遠いところすまないね。早速だが、仕事に掛かりたい。移動で疲れているところすまないが、よいか。」
「ああ、いいよ。君たちの補佐の子たちもみたいしね。」
4人が控えている部屋へレオリーを連れていく。
「みな、おはよう。イタリアよりロレンツォのレオリーが到着した。早速だが、各々自己紹介を頼む。」
「みんな、レオリー・A・ロレンツォだよ。よろしく頼む。」
レオリーは現在のボスであるレオナルド・A・ロレンツォの次男。長男がトップ2である。代々表舞台では由緒ある貴族としてふるまい、裏社会では、ゴロツキを束ね、様々な情報網を敷き、スパイとしての力は絶大である。そしてその手口は巧妙で足がつかない。今回の作戦には適任というわけだ。
「レオリー、こちらの情報はどこまで入っている?」
「ケイから、事前情報をもらっていたからね、ある程度は入っているよ。君たちが、花街に潜入しているところまでは情報が入っている。」
「それなら話が早い。今回は、グロディアの戦争、神楽組との戦争を2軸で進めなければならない。今回、私と同行する側近は慶と補佐のみな5名、そして彼らの組からの応援でそれぞれ10名ずつ。約50名ほど、といったところか。残りは各組長たちが神楽組の戦争に備えてくれる。」
結局組長たちの計らいで、人員をあてがってくれた。
「OK。ボクたちの組員も人員はいっぱいいるから大丈夫だよ。今回はグロデイアの戦争だからね、大掛かりな準備が必要になる。奴等を殲滅するにあたって必要なことは2つ。1つ、奴等のトップを全員叩くこと。1つアヘンの製造所を破壊すること。」
「ふむ、爆破については問題ないと思うが、トップ全員叩くというところは難関だな。」
「零様、それとどういうことでしょうか。」
香月が首をかしげる。
「グロデイアはトップはあまり姿を現さないことで有名でね。私もボスの顔は見たことがない。」
「そう、レイの言う通り、トップが集まることは滅多にない。だけどね、朗報があるんだよ。」
「朗報とは?」
「2か月後、神楽組の組長とグロデイアの同盟を結ぶための密会が開かれる。場所は中国。」
「同盟!?そんなことをになったら…」
神が立ち上がる。
「神、落ち着け。」
香月がなだめる。
「叩くなら、そこだな。」
「ああ、レイ。そこが一番の好機。だが、一番厳しい戦いになる。」
それはそうだろう。トップ同士の会合だ。護衛は精鋭ばかりだろう。こちらも気合を入れねばならない。
「レオリー、やつらの工場はどこにある。」
「モスクワだよ。」
「ということは二組に分かれるる必要があるということか。人選は向こうで決めようか。現地の状況把握をしてからだな。」
「まず、キミたちは、一緒にイタリアにきてもらう。うちのボスも会いたがっていたしね。そこでうちの組員たちともに作戦を細かく緻密に練っていこう」
「わかった。では当初の予定通り、来週末には出発しよう。それまではここで情報を集めながら、整理をしていこう。」
「御意」
「神、香月、連夜、潤、お前たち、一度組に顔を出してきなさい。一人ずつ、交代で行ってこい。」
「なぜです?ここからの時間が大事でしょう?」
潤が不服そうに言う。
「3か月近く日本を離れるんだ。お前たちの部下も寂しがる。それに、組の幹部であるお前たちが、自分の組を鼓舞しないでどうする。神楽組の戦争もあるんだ。組長たちだけに重荷を背負わせるな。お前たちの代わりを部下たちが補わなければ‥‥」
私の補佐としてそばにいてくれるのは心強いが、自分たちの組のことをないがしろにしては欲しくないからな。
「零様、承知しました。では、順次行くようにいたします。」
「ああ、連夜。同盟組あってこその皇組だ。大事にしてやりなさい。ここの組は私の命よりも守らねばならないものだと心得なさい。」
「「「「御意」」」」
「レオリー、あとで一杯しようか。」
「いいね。ニホンシュがのみたいとおもっていたところだ。」
「お前たちも時間が合えば来なさい。」
「わかりました。」
会議はここまで。さて、今のうちに書類に目を通したり組の動きを把握したりせねばな。
「慶、今から、書斎にこもる。宴の前に着替えておきたい。宴の1時間前になったら呼びに来てくれ。背中の手入れを頼みたい。」
「承知いたしました。」
ぐぅーっと背伸びをし、書斎での仕事に向かう。