第6話

文字数 1,290文字

翌日の合同入学式には、日本各地から保護者たちが集まった。カリフォルニアの大学のメンバーたちも、両親と一緒に座っていた。うちの親は来なかったので、僕は谷の隣に座った。谷の家は父親が亡くなっていたため、優しそうな母親が一人で来ていた。


入学式は特に盛り上がることもなく、淡々と進んだ。式のプログラムは次の通りだった。


開会の辞


式辞


祝辞


歌ったり立ったりすることもなく、ただ座ってつまらない話を聞く時間が続いたが、ある一か所でどよめきが起こった。


「えー、それではお祝いの電報が届けられておりますので、ご紹介してまいります。内閣総理大臣・海部俊樹様より。

『本日は、全米六大学ご入学おめでとうございます。世界の平和と繁栄に日本が果たすべき国家的使命と責任は、今や飛躍的に増大しています。この本格的な国際化時代の到来を受け、国際国家日本にふさわしい人材の育成こそ、我が国の教育の最重要課題であると言っても過言ではありません。本日、全米六大学合同入学式に臨まれている皆さんが、豊かな創造性を育むアメリカの大学で熱心に学び、今後ますます親密・多様化する日米関係の担い手としてご活躍されることを、願ってやみません』」


4、新 入 生 呼 名(名前を呼ばれ、ひとりひとりが座ったまま返事をした)


5 六大学来日教授 代表挨拶


6 新入生代表挨拶


7 閉 式 の 辞


昼食を挟んだ後、大学ごとに用意された会議室で説明会が行われた。大きな楕円形のテーブルを囲んで緊張した面持ちの両親たちとメンバーたちが座り、スチューデント・アドバイザーのマーサ、学長のヘイズ、クロスロードの男性スタッフと女性スタッフの四人がホワイトボードの前に立って、カリフォルニアの気候や環境、ESL(大学附属の英語コース)の授業の様子などについて説明を始めた。参加者たちはその話を一言も聞き漏らさないように耳を傾けていた。そして質疑応答の時間に、全員の注目を引く出来事が起きた。


クロスロードの男性スタッフが「質問のある方はどうぞ」と言うと、メンバーの母親が恥ずかしそうに質問し、それを女性スタッフが英語にしてマーサと学長に伝える。そして、その解答を日本語に訳して教えてくれる。で、また、あれこれと保護者たちが質問をはじめる。


「もう質問のある方はいませんか?」男性スタッフが見回しながら言う。すると、空気の読めないあるメンバーの父親が英語で質問したのである。なのでマーサと学長が直接それに答えるかたちになった。


それはつまりここに集まった顔ぶれを考えると、きっと誰もが、英語で質問するんじゃない! 私たちがわからないだろ! そう思ったに違いない。


様子を見ながら順番にいろんな大学を回ってきた鷹田信一が、今の質問と回答を伝えた後、親の立場になって手短に話をし、最後にマーサから注意事項を聞いて終了した。


❶ お酒を飲んでいるところを二度見つかった場合は退学。


❷ 異性の部屋に夜十時以降に入っているところを二度見つかった場合は退学。


❸ 室内は全て禁煙。もし吸っているところを二度見つかった場合は退学。


❹ 車の免許取得や車の購入は一年以上経ってからにすること。




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