第21話 マホ

文字数 1,250文字

 大学で法律を勉強しているのは裁判官になりたいからです。女性は少ないですが、なるための努力は続けたいと思っています。
 なぜ裁判官を志しているかはいくつか理由があります。
 やはり難関であることも理由です。挑戦するからにはいちばん大変なことを目指したいと思っています。
 あと、個人の力を発揮できると思うこともあります。もちろん、個人だけで仕事をしているわけではないのですが、最後の決断は、自分が決めなければなりません。その覚悟を持ったものだけがなれる仕事だと思うのです。
 私はこの国を変える仕事をしたいと思っています。様々な分野で、その思いを共有する人が働いていると思います。司法の分野だけではなく、経済や、教育や、政治など、直接的にも、間接的にも、この国と関わる仕事は多いです。
 その中で私は裁判官に魅力を感じています。私の判断が、この国の未来への礎になると思うからです。
 植物法の18歳への変更に関しては、いまの私の立場からはなにも申し上げることはありません。変更になろうと、ならなかろうと、順守するだけです。
 ただ、私が植物になるという決断はしません。まったく考えたことはありません。なぜなりたいのかを考えたことはありますが、私はならないと思うだけでした。
 もし裁判官の選択に、たとえば、罪を犯した者に、強制的に植物になるように刑を処するという権利が与えられたとしたら、当然、そのことについて深く考えなければなりません。いまは、そういう法律はないので、あくまでも仮定の話ですが……。
 もし植物にすることが正しいと判断したら、ためらいなく私はそのように判決いたします。ただ、そのように判断する機会はないのでないかと思います。自分の意志以外で、植物にさせるというのは人倫を無視していると考えられます。あくまでも、植物になるという権利を持つことまでが、人間の許されるぎりぎりのラインではないかと思います。
 死刑の判決をするよりは、植物になるほうがよいのでは?
 そのような意見も聞いております。しかし、私は、死刑判決をするという法律を考え、その旨を告げることが必要だと考えています。そして、その上で、植物になろうとするものがいるのは、人間の気持ちとしてやむを得ないのではないかと思います。死刑判決を受け入れるものもいます。その人達なりのけじめなのではないでしょうか。
 それに、植物になることが逃げなのかどうかはなんともいえませんし、人間の役に立つということでは、あえてそれを選択することもあるでしょう。どちらがいいとはいえません。被害者や被害者の家族の問題もありますし……。
 とにかく、私は、自分で考え、判断をする人間でありたいと願います。そのための努力は怠らないつもりです。一つ一つの事案をとことん考え、最善を尽くしたいと思います。
 私の家族や友人が植物になろうとしたら?
 きっと動揺するでしょうね。
 どうしたらいいかわからないです。
 でも、私は植物にはなりません。それだけははっきりといえると思います。
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