猫+チョコ+目覚まし時計 その1

文字数 1,157文字

 目覚まし時計が大きな音を立てている。眠いけど起きなければ。
 手を伸ばして目覚まし時計の音を止めようとしたが、幾ら伸ばしても目覚まし時計に手が触れない。
 顔を上げて目覚まし時計の位置を確認しようとするが、どうやら知らないうちに頭を布団の中に入れていた様だ。

 先ずは、頭を布団から出し……妙だ。足も手も布団の中なのに、頭まですっぽりと入っている。伸ばした手が、手じゃない。これは、眼前で伸ばされているのは猫の脚。
 何だ夢か。たまーに、そう言う夢を見るんだよね、起きなきゃならないのに、起きられない位に疲れている時。

 目覚まし時計は一旦音が消え、静寂で眠気が襲ってきた。夢の中で眠くなるのも妙だが、まあ夢の中で寝たら逆に目が覚めるだろう。
 うとうとしていた頃、目覚まし時計のスヌーズ機能が発動。再び目覚まし時計を止め様と手を伸ばす。しかし届かない。
 手を見る。いや、肉球を眺める。ふと、フランツ・カフカの「変身」を思い出す。起きたら虫に変身、それでも仕事のことを考える主人公。そう、猫に変身したからといって、それを誰が信じてくれるだろうか。

 とにかく、布団から這い出て目覚まし時計を止める。そして、スマホの画面をタップ。肉球が反応するのは、動物好きなら知っていることだ。
 さて、生体認証は不可能だが、暗証番号ならロックは解ける。解けたところで職場へ連絡は出来ない。いや、喉がやられる風邪をひいたことにして病欠すべきか? そう考えながらスマホを操作する。
 そんな時、空腹に気付いた。猫の体で何を食べて良いか分からないが、味付けしていない肉なら平気だろう。茹でただけの笹身を食べるか。

 ご飯を食べたら、猫の体は大をひり出す様に出来ている様だ。仕方が無いので、要らない紙を重ねた上に出した。自尊心が傷付いた。
 少し水分を摂ってから布団に横たわる。幾ら「人間 猫になった」と検索しても対処方法は見つからない。イライラして尻尾を振り、ふて寝をした。

 再び目覚めた時、目の前には見慣れた腕が伸びていた。まだ寒い季節なのに剥き出しの腕は冷えていた。もとい、全身が冷えて目が覚めた。
 慌てて毛布を巻き付けた。その後、慌てて身支度をして出社。自分以外にも遅刻をした社員は居た。そして、誰もが理由を寝坊と語った。

 しかし、遅刻した人数が人数だっただけに不審がられ、本当の理由を言うように言われた。誰もが戸惑った。そんな時、一人が小さな声で「昨日バレンタインデーだったでしょう? 言いにくいことですが、手作りチョコを断れなかった人が体調を崩しているだけですよ、ね?」と言った。発言者以外の遅刻した皆が頷いた。
 これを聞いた質問者も、深掘りをするのは躊躇われた様だ。そうして、バレンタインデー翌日の遅刻理由は、有耶無耶のまま闇に葬られたのだ。
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