第3章 人気と不人気の邂逅

文字数 2,221文字

利家が編集長に通達されてから一週間後...遂に約束の日がやってきた。
はぁ...緊張してきた。

自信作とはいえ、これを編集長に見せるからな...

利家は自分のパソコンと新作が収録されているUSBメモリが入っているバッグを抱えながら、編集部の前に立っていた。

しかし、あまりにも緊張をしていたのか、棒立ち状態から一歩も動いていなかった。

あの、失礼します。

棘池文庫に用があるのでしょうか?

うわぁ!

な、な、なんだ!?

緊張している利家にまつが話しかけてきた。

利家は驚き、絶叫した。

ってあれ?

あなたは確か、この前私に編集部の案内をした...あの時はありがとうございました

え? あ、いやいや。こちらこそ。

それにしても君が大人気イラストレーターのまつさんだなんて、驚いたよ

え? 何故私のことが分かったのですか?
なんか、ネットニュースに顔写真が載ってたからさ
あ、ああ。

なるほどですね...

ていうか、まつさんも編集部用?

よかったら、一緒に来れない?

...え? なんですか? あなたも黒川の担当さんと同じことをするつもりなんですか...?
う、うん。

なにをされたかは知らないけど、俺は少なくとも変な意味で言ってるわけじゃないよ。

そうですか...よかった...
まつは胸を撫で下ろした。
俺一人だとどうも緊張しちゃってさ...だから、一緒に入った方が緊張も2分の1。

...なんて...

情けないですね。

大の大人がJKに助けを求めるなんて

...
利家はまつの毒舌に軽く落ち込んだ。
まぁ、いいでしょう。

私もあなたも編集部に用があるのでしたら、一緒に行くことに越したことはありません

あ、ああ...よかった
利家とまつは一緒に編集部へ入った。
編集長、おはようございます
おはようございます
おはよう。2人が同時に来てくれてちょうどよかった
と、言いますと…?

本来なら九ノ瀬の小説を私が読んだ後にまつさんに読んでもらい、九ノ瀬にはまつのさんイラスト集を見てもらう予定だったが、同時に来てもらったんじゃ、話は早い。

ここで私が読んだ後にまつさんが九ノ瀬の新作を読み、九ノ瀬の新作に登場するキャラクターをまつさんに直接描いてもらいたい

え…もしかして、この人が九ノ瀬利家さんですか?
え? 俺のラノベのイラストをまつさんが描くんですか!?

ああ。そうだよ。

とりあえず、面談室に行こうか

利家とまつは編集長に案内され、面談室へ移動した。
では、君の小説を読ませていただこうか
はい。よろしくお願いします

利家はかばんからパソコンを取り出し、電源をつけた。そしてワードを開き、自分の新作小説を見せた。

小説のタイトルは『異世界転生したのにチート能力が使えない』である。

あらすじは『ある日交通事故で死亡した木村直樹は異世界に転生された。直樹は異世界で無双できると期待していたが、技はなにも使えず、ゴブリンにすら敗れる有様であった。そこで直樹は強いパートナーを募集したが…』

である。

編集長は真剣な眼差しで利家の新作を読んでいた。

ど、どうですか…?

俺の新作は…?

利家は編集長に恐る恐る訪ねた。

内容自体は悪くはない。

それに異世界ものとはいえ、君が今まで書いたラノベの内容と比べると、ある程度捻ってあるな

あ、ありがとうございます

しかし、今時弱い主人公が強くなる系のものが受けるかどうかが微妙だな…

ラノベ界で今受けているのは最強系の主人公だからな…もっとも、主人公が最強過ぎたらそれはそれで叩かれるんだけどな。まあ、評論家気取りの読者様はとても天邪鬼なのだよ

…そうですか
では次はまつさん、どうぞ
編集長はパソコンを反対側(まつと利家が座っている方向)へ向けた。

まつも編集長同様、真剣な眼差しで利家の新作を読んでいた。

ど、どうかな?

俺の作品…

…!?
まつは本を読み続けているうちに、目の輝きが増してきた。
これ…すごく面白い…!
え? マジで!?

なんというか、私が昔読んだバトル漫画を思い出しました

バトル漫画…?

はい。主人公直樹君は最初は弱く、戦いを続けるうちにどんどん強くなって行くところが王道のバトル漫画という感じがしてとてもよいです。

そして、直樹君の彼女がとてもかわいらしいです

え?

文字だけでかわいいとか分かるの?

はい。行動とかしぐさとか…そして直樹君思いのところがとても好きです。

確か…名前はパーニャちゃんでしたっけ?

そ、そうそう!

利家とまつはいつの間にか意気投合をしていた。
まつさん、そんなによかったのかい?
はい。読み終わった直後の今なら、登場人物のイラストがスムーズに描けると思います!
では、決まりだな
え?
え?

九ノ瀬の新作は正式に発売するとする。

だが、1章分だけじゃ足りないから後3章分書いてくれ。

まつさんは先ほど話した通りに新作の登場人物のイラストを描いてくれ。描き終わったら、1巻の扉絵と挿絵を描いてくれ

はい。で、締め切りはいつでしょうか?

2人とも三ヵ月後が締め切りだな。

では、よろしく頼むぞ

編集長は、2人に仕事内容と締め切り期間を伝えた。

では、私は他の仕事があるから。

後は2人でよろしく。

それと、2人に担当編集もつけておくから、次から作品のことについて話したりするときはその編集者に話してくれ。編集者は今度紹介するよ

編集長はそう言い残し、面談室を後にした。
三ヵ月か…書ききれるかな…
あの、九ノ瀬さん…
ん?
ふ、不束者ですが、よろしくお願いします
あ、あはは…
こうして、不人気ラノベ作家大人気イラストレーターの二人三脚が始まった。
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登場人物紹介

名前:九ノ瀬利家

年齢:25歳

職業:ラノベ作家

20歳の時に大賞を取り、ラノベ作家として活動をしていたが、どの作品も売れず、ことごとく打ち切りに遭っていた。(書いている作品はいずれも異世界もの)

成人男性だが、現実逃避をしたりするなど、大人としての自覚はない。

名前:まつ

年齢:16歳

職業:イラストレーター

同人活動を経て、中学生の時にイラストデビューした。様々なラノベのイラストを描いている。無口だが毒舌家

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