プロローグ 打ち切りラノベ作家の憂鬱
文字数 1,747文字
ここは棘池文庫、様々なヒットラノベ作品を生み出している大手文庫である。
しかし、ヒット作品ばかりが出されているわけではないようだ。
25歳のラノベ作家、九ノ瀬利家が焦った表情をしながら編集長と話していた。
確かに異世界ものは人気で、読者の憧れでもある。しかし、ラノベは異世界ものが多すぎる。そのせいで似たような作品が現れたり、他の作品に埋もれてしまうものもあるんだ。
だから打ち切りになった異世界ものを執筆していた作者は皆、ジャンルを変えたり、同じ異世界ものでも捻ったりするんだ。
しかし、君の場合はジャンルを変えることもなく、捻ることもしていない。それが打ち切りの原因だ。
とにかく、これ以上打ち切られると拉致が開かん。だからもしも次の作品が打ち切られたら、お気の毒だが、棘池文庫を辞めてもらう。
そして1週間後までに新しい作品を考えておきなさい。
それと、君の3人目のイラストレーターは呆れてもう九ノ瀬君の作品のイラストは描かないと言ってたぞ。
クソ…俺が手塩にかけた作品その10が打ち切りになるだけじゃなくて、イラストレーター3人目に見放されるなんてな…しかも次打ち切りになったらクビ…
ラノベ書きたいがために実家から飛び出したが…このままじゃ、クソ狭い実家でクソ退屈な農作業をさせられてしまう…どうすればいいんだ…
利家は重い足取りで編集部を後にした。
利家はパソコンを立ち上げ、インターネットを開いた。
すると、彼はとても気がかりなニュースを見つけた。
そのニュースのタイトルは「大人気イラストレーター、黒川文庫から棘池文庫に移籍か!?」だった。掲載されている写真にはさっきの少女と恐らく少女が描いたイラストが映っていた。
その少女はラノベを読んでいる者に知らない者はいないと言われるほどの有名イラストレーター「まつ」だったのだ。
しかも彼女は現役の高校生である。
利家も彼女を知ってはいたが、イラストと名前しか知らなかったため、顔を一切知らなかった。
自分が有名イラストレーターと会えたことが、とても嬉しかったのだ。
打ち切り作家、利家の戯言である。
しかし、世の中何が起こるか分からない。もしかしたらその戯言が本当になるかも知れない…