プロローグ 打ち切りラノベ作家の憂鬱

文字数 1,747文字

ここは棘池文庫、様々なヒットラノベ作品を生み出している大手文庫である。

しかし、ヒット作品ばかりが出されているわけではないようだ。

25歳のラノベ作家、九ノ瀬利家が焦った表情をしながら編集長と話していた。

え…俺の作品、また打ち切りですか…?
ああ、打ち切りだ。なにせ売り上げが乏しいからね。
ちょっと待ってください! 俺の作品、10作目なんですよ!? その作品たちが全部で打ち切りになるなんて、何か問題でもありますか!?

問題はおおありだ。

そもそも、九ノ瀬君の作品はあまりにもありきたり過ぎる。

主人公が何かしらの理由で異世界へ行って、無双するものしか書いてないだろう。

しかも、君の全ての作品がそんな感じだ。

でも、異世界ものって結構ヒットしてるじゃないですか!

主人公が強いのは読者の憧れなんですよ!?

確かに異世界ものは人気で、読者の憧れでもある。しかし、ラノベは異世界ものが多すぎる。そのせいで似たような作品が現れたり、他の作品に埋もれてしまうものもあるんだ。

だから打ち切りになった異世界ものを執筆していた作者は皆、ジャンルを変えたり、同じ異世界ものでも捻ったりするんだ。

しかし、君の場合はジャンルを変えることもなく、捻ることもしていない。それが打ち切りの原因だ。

最もな意見を言われた利家は何も答えることができなかった。

とにかく、これ以上打ち切られると拉致が開かん。だからもしも次の作品が打ち切られたら、お気の毒だが、棘池文庫を辞めてもらう。

そして1週間後までに新しい作品を考えておきなさい。

それと、君の3人目のイラストレーターは呆れてもう九ノ瀬君の作品のイラストは描かないと言ってたぞ。

え? マジですか!? ちょっと、待ってくださいよ!
利家のラノベのデザインは今まで3人イラストレーターが描いていた。しかし、1人目は2作品目が打ち切りになった時に田舎へ帰ってしまい、2人目は5作品目が打ち切りになった時に他の作家のイラストを描くことになってしまい、そして10作品目が打ち切りになった今、三人目のイラストレーターが利家の元を去ってしまった。

クソ…俺が手塩にかけた作品その10が打ち切りになるだけじゃなくて、イラストレーター3人目に見放されるなんてな…しかも次打ち切りになったらクビ…

ラノベ書きたいがために実家から飛び出したが…このままじゃ、クソ狭い実家でクソ退屈な農作業をさせられてしまう…どうすればいいんだ…

利家は頭を抱えて悩んでいた。
…とりあえず今日は帰るか

利家は重い足取りで編集部を後にした。

ん? あの子、どうしたんだろう。編集部に用があるのかな…?
利家は編集部の入り口で棒立ちしている少女が気になった。
あの、棘池に用とかあるの?

…はい、私はここに初めて来るので、何階へ行けばいいか分かりません。

先ほど中へ入ったのですが、人がとても多かった上、そもそもここが本当に棘池かどうか怪しいと思い、ずっと出入り口にいました…

大丈夫、ここは棘池だよ。それに、何階へ行けばいいかは受付の人に言えばいいからさ。
…ありがとうございます。では、行ってきます。
うん。頑張って
はぁ…さて、新作のアイディアを考えないと…

利家はパソコンを立ち上げ、インターネットを開いた。

すると、彼はとても気がかりなニュースを見つけた。

あれ!? この子、さっきの!?

そのニュースのタイトルは「大人気イラストレーター、黒川文庫から棘池文庫に移籍か!?」だった。掲載されている写真にはさっきの少女と恐らく少女が描いたイラストが映っていた。

その少女はラノベを読んでいる者に知らない者はいないと言われるほどの有名イラストレーター「まつ」だったのだ。

しかも彼女は現役の高校生である。

利家も彼女を知ってはいたが、イラストと名前しか知らなかったため、顔を一切知らなかった。

この子があの有名高校生イラストレーター、まつさんだったなんて...まさか俺が本物に会えるなんてな...
利家は陽気に鼻歌を歌っていた。

自分が有名イラストレーターと会えたことが、とても嬉しかったのだ。

もしもまつさんが俺のラノベのイラストを描いたら、どうなるのかな?

打ち切り作家、利家の戯言である。

しかし、世の中何が起こるか分からない。もしかしたらその戯言が本当になるかも知れない…

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

名前:九ノ瀬利家

年齢:25歳

職業:ラノベ作家

20歳の時に大賞を取り、ラノベ作家として活動をしていたが、どの作品も売れず、ことごとく打ち切りに遭っていた。(書いている作品はいずれも異世界もの)

成人男性だが、現実逃避をしたりするなど、大人としての自覚はない。

名前:まつ

年齢:16歳

職業:イラストレーター

同人活動を経て、中学生の時にイラストデビューした。様々なラノベのイラストを描いている。無口だが毒舌家

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色