第2章 それぞれの努力
文字数 3,507文字
編集長に通達されてから5日後、利家はようやく新作のアイディアが浮かんだ。
利家は編集長に忠告されたのにも関わらず、ジャンルは変えなかった。しかし
利家はノートを見た。そのノートには新作のアイディアが書いてあった。
登場人物やラノベのタイトルなどが描いてあったが、字がとても汚く、普通の人では読めないことはないが、読みづらいものである。
ま、後2日あるしゆっくり考えるか。とりあえず夕飯買いに行くか。
利家は家を出て、スーパーへ向かった。
恰好は青いジャージだったため、おおよそ出かけるのに相応しくないものであった。
九ノ瀬利家さん…まとめサイトでやたらネタ扱いされているから名前だけは知っていたけど…
まつは利家がこれまで書いたラノベ10作を買い込み、家で読んでいた。
どの作品も展開はあっさり解決して味気がないし、何より登場人物に魅力を感じない…特に理由もないのに女の子が主人公に惚れるし、その主人公も魅力を感じないし…Hなシーンは露骨だし…
私が今まで挿絵を描いたラノベは展開こそは似ていたけど…展開がよかったり、登場人物それぞれに魅力を感じたから、失礼だけど打ち切りになった理由が分かった気がする…
利家はスーパーで買い物をしていた。
買い物カゴの中にはたくさんのカップ麺が入っていた。
声をかけてきたのは福田千代という女性である。
利家とは幼馴染で高校1年生の時に棘池で小説家デビューをし、上京した。利家が小説家を目指したのは彼女の影響も少なからずある。
ヒット作を多数抱えており、7年前に代表作がアニメ化しており、2年前にはその代表作の2期が放送され、今年には映画化も決定している。
でも、そればかり食べてたら身体壊すわよ?
私の家来る? 料理の作り方、教えるわよ。
いいから来なさい!
ここでうじうじしてたら、逆にアイディアが思いつかないわよ。それに、もしかしたらいいアイディアが思いつくかも知れないわよ!
千代は強引に利家の手を引っ張った。利家は抵抗したが千代には叶わず、やむなく買い物かごをその場に置き、スーパーを後にした。
利家は少々ガチガチになりながら千代の家に入った。
自分の家と差に驚き、緊張してしまったのだろう。
そんなに固くならなくっていいって〜ここよりもっと大きいところあるし
それに、まだ引っ越しして2年しか経ってないし…
かつて千代が住んでいた闇の魔導師アパートで、その隣に建っているのが現在利家が住んでいる光の魔導師アパートである。
因みに、光の魔導師アパートが建設されたのは闇の魔導師アパートが建設されてから4年後のことである。
つまり、利家が上京(という名の逃亡)したその時である。
そうだよ。まぁ、闇の魔導師より少し安いからね。
ていうか、同じ町なのになんでわざわざ引っ越したの?
私のアパートが特定されて、厄介ファンに押しかけられゃって…
それに見かねた担当さんが引っ越しを提案したのよ
担当ね…
俺はどういうわけか担当が三ヵ月から半年単位で辞めちゃうんだよな…
編集長によると、事情で他の作家に移る者ももちろんいるけど、夜逃げしたやつもいるらしいんだよな…
利家は自分のこれまでの担当について話しているうちに、段々と表情に影が見え始めた。
ま、まぁまぁ...今、過去のことを振り返ってたって、どうしようもないでしょ?
まぁ、それもそうだな...悪い、こんな話聞かせちまって
さぁ、料理を始めるわよ!
ビシバシ指導するから、ついて来なさい!
流石に毎日コンビニ弁当だと身体壊しそう…
でも、私料理の作り方知らないし…
利家と千代は丸焦げになっている野菜炒め(だったもの)を虚無感のある表情で眺めていた
うん…一応私なりに指導したんだけど…やり方がわからないんじゃね…
いや、ほんとすまん…料理は千代が作ってくれ。俺、あらすじ考えとくからノートとペン貸してくれ…
千代は利家にノートとペンを渡した後、料理の作業を再開した。
利家は料理を失敗したことで、打ち切りになった自分の手塩にかけて育てた作品を思い出し、酷く落ち込んだ。
内容はある日不慮の事故で死んじゃった主人公が異世界で戦う話...までは今まで書いた俺の作品と内容はほぼ同じだ。でも、違うところもある。それはヒロインが最初から主人公と付き合ってるところだ。
異世界に転生した直後にヒロインがいきなり主人公告白し、付き合うことになれば他のヒロインが入り込む隙もないし、読者も主人公は難聴だのクズだの叩くこともないだろう...
それと主人公はチート属性はなくて、最初はとても弱いけど後から強くなるって感じのやつ。ましてや本当は強いのに本当の力を隠すということもしない。
最近のラノベは強すぎる主人公が多いから、たまにはこういうのもいいと思うな
利家は自信に満ち溢れていた。
その自信は作品の完成度以外にも、自分が今まで書いた打ち切り作品達と一味違うものを書いた。というのもあるのだろう。
おっ、俺の作品のことを呟いていたら、あらすじの内容が思い浮かんできたぞ!
利家は箇条書きではあるが、自分が考えついたありったけのあらすじをノートに書き殴った。
字は当然汚い。
そして、利家は目を輝かせながら、その汚い文字を書き続けていた。
まつは笑顔を浮かべていた。常に無表情であることの多いまつであるが、彼女は自分がイラストを描き終わった時によく笑うのだ。
そして、イラストの内容はピンクのロングヘアーの女の子でセーラー服の格好をしているものである。
でも...少し胸が大きすぎるかな...多分Eくらい大きいと思うな...
まつはイラストの女の子の胸の部分を触りながら考えていた。
...まぁ、私が今まで描いたイラストもある意味理想の私みたいなものだし...
まつのイラストはやたら巨乳の人が多いのである。それは彼女の胸がA程度でとても小さく、もしも自分の胸が大きかったらという理想を絵に表してるのだ。
それにしては、少々盛りすぎの部分もあるが。
...とはいえ、九ノ瀬さんのラノベのヒロイン達はほぼ貧乳だから、頑張って貧乳の女性も描けるようにならないと...
はい。お粗末様でした。
それにしてもよく短時間であらすじを書けたわね...
まぁ、まだ箇条書きだけどな。
家に帰ってゆっくり正式なあらすじを思い浮かべるよ
千代の料理を食べ終わった利家は玄関で千代と会話をしていた。
いいわよ。
私の家、ノートたくさんあるし。
それに、せっかく思い浮かんだアイディアを記したノートが手元になかったら、意味ないんじゃない?
ノートを抱えた利家は千代に手を振りながら、彼女の家を後にした。
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