第13話

文字数 939文字

「それは私が其方を本当に妻と致すか、猜疑心を抱いておるからだ……摂政が溺愛する孫姫の其方に、私の胤を授けるか否か……我らの祖父様は、それを殊の外疑っておられる………」

 今上帝は形好い御唇を、皇后の薔薇色に染る耳元に持って行き、息が掛かる様に囁かれたから、皇后は身を攀じる様にして今上帝を仰ぎ見た。

「耳も頬も肌も……赤いな………」

 大きな手を、皇后の赤く染まった肌に沿わせながら、今上帝は尚も皇后に囁く。

「我らの衣には、幾日も焚き込めた香が染み込んでいる………それは其方が私の胤を、漏らさず受け止める為だ。そして其方の母は、同じ香の衾を確認する様に覆う………全て執り行う事の無くなったものだ」

「えっ?」

 今上帝に囁かれながら、徐々に陶酔していた皇后は、微かな艶を放ちながら、甘える様な表情を浮かべたまま、薄っすらと笑みを作る今上帝を見つめた。
 
「其方も私も夫婦とならねば、治まらぬということだ………其方も私も……祖父様の期待に応えねばならぬ………」

 薄く形良い唇を、微かに艶を放つ皇后の首筋に這わして、今上帝は心地良い声音で囁いた。
 そのまま今上帝は荒々しく皇后を組み敷くと、二人は意識の無いままに激しく求め合い、未だ何も知らない無垢で清らかな白肌は、乱れに乱れて絡み合い、幾度と無く溺れ沈み合った。

「………………」

 どれ程の時が経ったのか………皇后が意識を取り戻した時には、祖父である摂政を筆頭に、父や一族の主だった年寄り達が、帳を上げられた御帳台を囲んで覗いていた。

「ひゃ………」

 皇后は慌てて身を隠す様にしたが、()うに身繕いは綺麗に整えられ、新しい衣を身に纏っていた。
 そして夫である今上帝は、満面の笑みを浮かべる摂政とは真逆に、その顔容を先程よりも一層きつくして一族を睨め据え、そのまま無言で寝所を後にされた。
 その後皇后も、迎えに来ていた女房達に手を取られて足早に寝所を出た。
 
 皇后の殿舎に戻るまで、今上帝の摂政に向けた、恐ろしい眼光の冷たさに再びの騒めきを覚えていた。
 だが翌日も、そしてその翌日も……若い夫婦は、夫婦の契りを交わした。
 この儀式の為だけに充てがわられた殿舎で、新妻は一瞬の夫の冷たい眼光すら、忘れてしまう程に、甘い契りを幾度も受けたのである。
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