Endless four Sin
文字数 2,293文字
オセロニア界にある魔族が住まう世界。魔族と一口に言っても幅広く、吸血鬼や不死者、鬼や妖などを魔族と呼んでいる。魔族の住む世界は独特の空気が満ちていて、それを一般的に瘴気と呼んでいる。瘴気に慣れている魔族にとっては人間にとって空気と同じ意味をなしているのだが、慣れていない者がもの瘴気に触れると、早くて数秒も保たずに自我が崩壊し発狂してしまう。耐性がある者がいたとしても、そう長くは続かず遅かれ早かれ発狂してしまうことは間違いない。発狂し、意識を保つことができなくなった者を魔界に潜む魔物たちがそれらを喰らい、生きているというルールが成り立っているのがこの魔族の住まう世界では当たり前だということ。
今日もどこかでそんな発狂した声が木霊している魔界の片隅で、薄暗い洞の中で退屈そうに足を組みながら椅子に座っている長身痩躯の魔族がいた。黒とも濃い紫とも言える長い髪を腰まで伸ばし、瞳はどこか気怠そうに一点を見つめていた。彼の名前はルシファー。別名傲慢のルシファーとも呼ばれている彼は、またどこかで聞こえる発狂する声を耳にして少し頬を緩ませた。足を組み換え、ある人物の名を呼ぼうと口を開いた瞬間、その人物は音もなくルシファーの傍に立っていた。
「お呼びですか。ルシファー様」
「いつも早いな。ベルゼブブ」
「はっ。ルシファー様のご命令であればいつでも」
ベルゼブブと呼ばれた悪魔は右手に鋭い爪を持ち、瞳はその爪と同じくらいに鋭く獲物を見据えている。そしてベルゼブブのまわりには無数の巨大な虫が飛んでおり、餌はまだかとばかりに羽音を轟かせている。その虫たちはベルゼブブの指示一つで相手を文字通り跡形もなく食べてしまうことから、別名暴食のベルゼブブと呼ばれている。
「本日はどういったご用件でしょう」
「なぁに。そんな力まなくて大丈夫だ。単刀直入にいうと、ほかの七罪を集めて話をしておきたいといったところか……」
「他といいますと、マモン、ベルフェゴール、レビヤタン、辺りでしょうか」
「そうだな。無理やりでなくていいから、集めることは可能か」
「はっ。仰せのままに」
言うや否や、ベルゼブブはその場から姿を消し他の七罪を探しにいった。
七罪─それは人間を罪に導く可能性のあると見做された感情や欲望のことを指す。七罪は他にも強欲、怠惰、嫉妬、憤怒がある。本来、もう一つ色欲があるのだが、今はどこをほっつき歩いているのか所在がわからないでいる。なので、今は所在がわかっている他の七罪を集め、ルシファーから話をしておきたいということなのだが、果たしてどれだけ集まるかはルシファーも見当がつかないでいた。
ベルゼブブが姿を消して数十分。集まったのはたった一人─サタンだった。サタンは七罪の憤怒を司っているこの中では少し変わった悪魔である。すらりとした体躯、その背中から生えた禍々しい翼、そしてそれとは反し表情は、美味しそうなスイーツをじっくりと選んでいるかのような乙女チックな雰囲気を漂わせていた。
「あら、ルシファー。久しぶりネ♡」
独特の口調で挨拶をするサタンに、無言で頷くルシファー。その挨拶が終わった頃、ふうと溜息を吐きながらベルゼブブが帰還した。戻ってきて早々、ルシファーは他の悪魔たちの様子はどうだったか尋ねると、ベルゼブブは難色を示しながら口を開いた。
「マモンは警戒されてしまい部屋から一歩も出ない状況でした。ベルフェゴールは『だらだらするのが忙しいから後で』と言われ、レビヤタンはわたしの顔を見た瞬間、どこかへ行ってしまいました」
心なしか、レビヤタンの事情を話しているときのベルゼブブは見えない傷を負っているように見えたのは気のせいだろうか。小さく拳を握りながら悔しそうにしているベルゼブブを見てけらけらと笑っているサタンは、「ちょっとアンタが怖ったんじゃないの~?」と口を滑らせベルゼブブは顔を真っ赤にしながらわなわなと震えていた。
「ベルゼブブ。ご苦労だった」
ルシファーの一言に冷静さを取り戻したベルゼブブは、自分の頬を思い切り叩きルシファーに向き直った。その様子を見てまたサタンはふふんと鼻を鳴らしながらルシファーの顔を見た。
「で? アタシたちに話があるって聞いたけど、一体何かしら?」
「そのことなのだが……」
ルシファーは一瞬口を噤んでから、静かに口を開いた。
「有事に備えて軍の強化をしておきたいのだ」
「なるほど。それで、具体的にはどのようにすれば」
ベルゼブブは前のめりに聞くと、ルシファーはふむといいながら椅子に立てかけてあった杖を手に取り、かつんと鳴らした。
「単純に話し合い……もし、それが不可能ならば無理やりにでもという方法もあるのだがな」
「まぁ、話し合いに応じるような相手ならいいけど、そうじゃナイんでしょ?」
サタンの言葉にふっと笑ったルシファーは、小さく頷き「狙うは天使兵……天軍だ」と発した。その言葉にベルゼブブは驚き、サタンは「あらぁ♡」と嬉しそうに頬を両手にあてた。
「なんて大胆なことを……ルシファー様」
「アイツら、力
「いきなり上の者を狙わなくてもいい。下っ端でも構わん。少しでもこちらに引き込むようにすればいい」
「わ、わかりました。このベルゼブブ。尽力して参ります」
「玩具が増えることはイイことだけど……でもまぁ、アンタがそういうなら手を貸してア・ゲ・ル♡」
こうしてベルゼブブとサタンは天使兵をこちら側に引き込むため、天界へ向けて出発した。一人残ったルシファーは薄く笑みを浮かべ、左手で小さく拳を作った。
今日もどこかでそんな発狂した声が木霊している魔界の片隅で、薄暗い洞の中で退屈そうに足を組みながら椅子に座っている長身痩躯の魔族がいた。黒とも濃い紫とも言える長い髪を腰まで伸ばし、瞳はどこか気怠そうに一点を見つめていた。彼の名前はルシファー。別名傲慢のルシファーとも呼ばれている彼は、またどこかで聞こえる発狂する声を耳にして少し頬を緩ませた。足を組み換え、ある人物の名を呼ぼうと口を開いた瞬間、その人物は音もなくルシファーの傍に立っていた。
「お呼びですか。ルシファー様」
「いつも早いな。ベルゼブブ」
「はっ。ルシファー様のご命令であればいつでも」
ベルゼブブと呼ばれた悪魔は右手に鋭い爪を持ち、瞳はその爪と同じくらいに鋭く獲物を見据えている。そしてベルゼブブのまわりには無数の巨大な虫が飛んでおり、餌はまだかとばかりに羽音を轟かせている。その虫たちはベルゼブブの指示一つで相手を文字通り跡形もなく食べてしまうことから、別名暴食のベルゼブブと呼ばれている。
「本日はどういったご用件でしょう」
「なぁに。そんな力まなくて大丈夫だ。単刀直入にいうと、ほかの七罪を集めて話をしておきたいといったところか……」
「他といいますと、マモン、ベルフェゴール、レビヤタン、辺りでしょうか」
「そうだな。無理やりでなくていいから、集めることは可能か」
「はっ。仰せのままに」
言うや否や、ベルゼブブはその場から姿を消し他の七罪を探しにいった。
七罪─それは人間を罪に導く可能性のあると見做された感情や欲望のことを指す。七罪は他にも強欲、怠惰、嫉妬、憤怒がある。本来、もう一つ色欲があるのだが、今はどこをほっつき歩いているのか所在がわからないでいる。なので、今は所在がわかっている他の七罪を集め、ルシファーから話をしておきたいということなのだが、果たしてどれだけ集まるかはルシファーも見当がつかないでいた。
ベルゼブブが姿を消して数十分。集まったのはたった一人─サタンだった。サタンは七罪の憤怒を司っているこの中では少し変わった悪魔である。すらりとした体躯、その背中から生えた禍々しい翼、そしてそれとは反し表情は、美味しそうなスイーツをじっくりと選んでいるかのような乙女チックな雰囲気を漂わせていた。
「あら、ルシファー。久しぶりネ♡」
独特の口調で挨拶をするサタンに、無言で頷くルシファー。その挨拶が終わった頃、ふうと溜息を吐きながらベルゼブブが帰還した。戻ってきて早々、ルシファーは他の悪魔たちの様子はどうだったか尋ねると、ベルゼブブは難色を示しながら口を開いた。
「マモンは警戒されてしまい部屋から一歩も出ない状況でした。ベルフェゴールは『だらだらするのが忙しいから後で』と言われ、レビヤタンはわたしの顔を見た瞬間、どこかへ行ってしまいました」
心なしか、レビヤタンの事情を話しているときのベルゼブブは見えない傷を負っているように見えたのは気のせいだろうか。小さく拳を握りながら悔しそうにしているベルゼブブを見てけらけらと笑っているサタンは、「ちょっとアンタが怖ったんじゃないの~?」と口を滑らせベルゼブブは顔を真っ赤にしながらわなわなと震えていた。
「ベルゼブブ。ご苦労だった」
ルシファーの一言に冷静さを取り戻したベルゼブブは、自分の頬を思い切り叩きルシファーに向き直った。その様子を見てまたサタンはふふんと鼻を鳴らしながらルシファーの顔を見た。
「で? アタシたちに話があるって聞いたけど、一体何かしら?」
「そのことなのだが……」
ルシファーは一瞬口を噤んでから、静かに口を開いた。
「有事に備えて軍の強化をしておきたいのだ」
「なるほど。それで、具体的にはどのようにすれば」
ベルゼブブは前のめりに聞くと、ルシファーはふむといいながら椅子に立てかけてあった杖を手に取り、かつんと鳴らした。
「単純に話し合い……もし、それが不可能ならば無理やりにでもという方法もあるのだがな」
「まぁ、話し合いに応じるような相手ならいいけど、そうじゃナイんでしょ?」
サタンの言葉にふっと笑ったルシファーは、小さく頷き「狙うは天使兵……天軍だ」と発した。その言葉にベルゼブブは驚き、サタンは「あらぁ♡」と嬉しそうに頬を両手にあてた。
「なんて大胆なことを……ルシファー様」
「アイツら、力
だけ
は強大だからねェ。こっちに引き込むことができれば……ウフフ」「いきなり上の者を狙わなくてもいい。下っ端でも構わん。少しでもこちらに引き込むようにすればいい」
「わ、わかりました。このベルゼブブ。尽力して参ります」
「玩具が増えることはイイことだけど……でもまぁ、アンタがそういうなら手を貸してア・ゲ・ル♡」
こうしてベルゼブブとサタンは天使兵をこちら側に引き込むため、天界へ向けて出発した。一人残ったルシファーは薄く笑みを浮かべ、左手で小さく拳を作った。