変化に飲み込まれる【天秤】

文字数 1,002文字

変わらないで。

ずっとこのままでいようと言ったじゃない。
2人でこのまま幸せになりたかった。

私もあなたも子供だった。
自分の心を自分で上手く扱えなくて、溢れ出した感情をぶつけ合って堕ちて行く、そんな歪な関係に酔っていた。
そんなところも子供だった。

あなたの心に穴を見つけると安心するの。いつも完璧に見えるようなあなたにも黒い部分があって、それに支配されていっぱいいっぱいになって、そんなあなたを見るのが好きだった。

本当よ。可愛いなって思って見ていたの。
まるで、ご飯に夢中になってる子猫みたいだった。

あなたは分かってくれなかったけれど、そんなあなたを受け入れること自体、気持ちよかったの。
ふふ、おかしいかな。

私の全てを補ってくれて満たしてくれていた。
ずっと、これが続くと思っていた。

いつからかあなたは大人になっていった。

あなたの心の穴が小さくなっていくのが、確かに見えていた。
私のせいなの?私があなたを癒しすぎたの?

あなたの心の黒い部分がもう見えなくなろうとしている頃、私の心はほとんどがその黒に犯されていた。

私が今まで心の拠り所にしていたあなたはもう居なかったの。

不安だった。私のこの子供な暗闇は、あなたには今どう見えているの?
幼稚?理解できない?可哀想?

ある時あなたは言った、
「どうしてそんな暗いものばかり追いかけるの?そんな君好きになれない」
と。

あぁ、もうあなたには会えないのね。

どうしてそんなことを言うのだろう。今まで一緒に追いかけあってきたじゃないか。
あなただけ先に抜け駆けゴールなんて。
惨めになるからこっちを見ないでよ。

その後、私は言った。
「私の心の拠り所なの。やめて欲しいならあなたが変わりになってくれる?」

私の中の唯一の答えだった。

お願い、お願いお願いお願い、

一緒に子供に戻ろうよ。

あなたは笑顔で了承してくれた。

しかし、あなたが変わることは無かった。

頑張ろうとしてくれていることは伝わった。けれどもそれはただ本能的な癒しに過ぎなかった。猫の頬ずり、鳥のさえずり、そんなものを必要とはしていなかった。

私はあなたと刺しあって、噛み合って、じっと見つめ合っていたかった。そんな暴力的な、愛とも言えない自分勝手なわがままで癒されたかった。

子供同士、あなたと私とじゃなきゃ気持ちよくなれないの。

あなたがそれに気づいてくれるまで、昔の気持ちを思い出してくれるまで、私はずっとあなたと手を絡めているわ。優しくね。
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