第1話 僕

文字数 1,401文字

『愛してるって何て虚しい言葉なんだろうね。』
君はどこか遠くを見つめ、悲しそうな顔をしながらそう言った。
そして私、そういうの分からないの。だからごめんなさい、と困ったような笑顔をしながら言って僕の告白を断った。
君とはすごく親しかったし告白したのも満開の桜の下で雰囲気も良かったから告白も自然にできたし、正直OKをもらえると思ってた。だから断られた瞬間、まず感じたのは自信満々に告白した自分への恥ずかしさ。次に感じたのは断られたことへの悲しさと悔しさ、そして次に自信を無くした。でも最後に僕が感じたのは憤りだった。
 君が愛を虚しいといったのは心からの言葉からに思えて、だからそんなことを思っている君に憤ったし、何よりそんなことを言わしてしまった自分に憤った。
 その言葉を口にした時の君は傷ついているように見えたから。何でそんな言葉を言わせてしまったのか考えても分からなくて。考えてみると僕は君の内面や君の過去を何も知らないからだと分かった。今の君しか僕は知らないってことに。

そこから先は単純だった。彼女のことを知ろうとした、彼女に好きになってもらえるように努力をした。自分でもフッた相手からまたアタックされるのは気持ち悪いものではないかと思ったけど、彼女は相変わらず笑顔で一緒に居てくれた。

そして、今度こそと丁度振られてから一年の日に君に改めて告白をした。同じ言葉で。同じ場所で。
『私もあなたの事好き。愛してる。』
一番聞きたかった言葉が返ってきた。
叫んで喜びたかったがそれは自重して、次の言葉を紡ごうとした瞬間
『ごめんなさい。』
君は泣きながら僕にそう告げた。
訳が分からなかった。僕は身勝手だけど去年の君の言葉を自分の愛で否定させようと思っていた。でも今理由は分からないけど僕は君にあの時以上に悲しい思いをさせてしまっている。
情けない、心からそう思った。胸が締め付けられるように痛くて、自然と涙もあふれてきた。
『何で貴方がなくの?』
そう君はぐしゃぐしゃの泣き顔で尋ねてきた。
なんて答えたのかは泣くことに精一杯で覚えてなんかない。でも思ったことを答えた。
君は僕の話を聞いて少し笑みを浮かべた後、一層強く泣いてしまった。
お互い泣き止むと君は話し始めた。
『呪われてるの、私。』
『天涯孤独だっていう話を前にしたと思うんだけど、それ呪いのせいなの。私が愛してるっていうのを伝えると次の日にはみんな死んじゃう。信じてもらえないかもしれないけど本当にみんな居なくなっちゃうの。貴方もきっと…。だからごめんなさい。私、なんでまたこんなこと…。わかってたのに愛してるって言うのがどういうことか。父も母もそのあと私を引き取ってくれた叔母も一番大切だった友達もみんな私が殺しちゃった。全部私が悪いの。でも我慢貴方にずっと伝えたいと、一年前から答えたいと思ってたから、どうしても今回は私も伝えたいと思っちゃって。勝手に口が動いて一番死んでほしくないあなたに愛してるって言ってた。後悔したけど遅いの。遅いのよ…。』
そういって君は俯いた。
僕はその話を否定することは出来なかった。
こんな話を信じることなんて普通は出来ない、あり得ない。でも惚れた弱みが君の流した涙が信じないなんていう選択肢を消し去ってしまった。
だから僕は信じることしかできない。

だとしても君に伝えたいことがある。
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