第2話 私

文字数 2,134文字

『好きです。いや愛してます。』
満開の桜が映える綺麗な夜にそう好きな人から告白をされた。
うれしくて胸が温かくなって、一瞬答えそうになったけど、本当に一瞬でその温かい気持ちは通り過ぎて、答えてはいけないという冷たい理性が戻ってきた。
私はこの言葉に自分の思うまま返せない。私も愛してますとは。
だから私の本心であり負け惜しみでもある一言をつい呟いてしまった。
言った直後にこんなこと言って振ったら嫌われてしまうって思って、どうにか言葉をつないだ。でも、言ったことは無茶苦茶で多分嫌われたなって思って泣きそうになりながら、言ってしまえばよかった?なんてことも考えながら家に帰った。
愛に力があるなら強い愛で私のことを助けてほしい。でもそんな力なんてないのはここまでの人生で分かり切ってるし、もう私のせいで愛する人が死ぬのを見たくない。多分次に見ることになったら私は自分で死ぬ。それぐらい私はもう疲れていたし、挑戦をする勇気を失っていた。人と親しくなるのが怖い、でも一人でいるのも嫌。
今、考えてみると、きっと私は怖かったのだと思う。生きるのも、でも一人で死ぬのも怖かった。十字架をこれ以上背負いたくないという恐怖と今、背負っている十字架の重さを背負って一人で朽ちていくことへの恐怖に板挟みだった。
嫌われた、って思ってたけど、彼はあんなことを言って変な言い訳をしてしまったのに、それからも変わらず、もっとよく話しかけてくれるようになったし、私のことを知ろうとしてくれているのを感じた。それは私にとっては幸いでもあり拷問でもあった。
だって、話せば孤独が薄れて気持ちが軽くなる。でも話すほど愛しさが募りそれを伝えられないもどかしさと愛が募れば募る程絶対に一緒になれない現実が辛くなるから。

告白から一年たった日にまた彼に同じ場所で同じことを言われてた
『好きです。いや愛してます。』
私は満開の桜の下、ここに連れてこられた時点でなんて言われるかは想像してた。言われたことは予想通りだった。ここに着くまでずっとハイって答えるだけなら呪いは掛からないんじゃないかみたいな希望的観測もした。でも私はそんな冒険をして彼を殺してしまうことが怖かった。だから断ると決めてその告白を聞いていた。
なのに、私の口から出た言葉は私が言おうと思ってたこととは全く違うことだった。
気が付くと言うべきことの反対の言葉を発していた。
その言葉を発してしまった事を理解した時にはもう涙が勝手に流れはじめ、そして
彼へ謝罪をしていた。
最初、何で私が泣いているのか分からなくて茫然としていた彼は急に泣き始めた。
何故かを問うと、泣きながらこう返された
『僕は君のことがずっと好きで、出会ったときは話しても無いのに君の真っ黒な髪と真っ黒な瞳から目が離せなかったし、知り合って良く話すようになってからは君がたまに見せる笑顔と誰にでも分け隔てなく接する優しい所を見て好きだなって思った。一緒にいる時間が長くなってからは二人だけの時の沈黙も他の人とのとは違って落ち着けるもので、自分が心底惚れてるって気が付いた。最初にフラれたときはもちろん断られたのはショックだったけど、君があんな悲しい事を言ったのが許せなかった。一番好きな君だけにはあんな悲しいことは言ってほしくなかった。でも、何より君にあんなことを言わせた自分が許せなくて、何も君の事を知らないってことに気が付いて、不甲斐なくて、でも君のことを諦められなくて。それで、それで、君のことをもっと知って、もっと好きになって、だから正直きもいと思われるかもしれないけどもう一回告白して。ちゃんと言葉を返してもらえて死ぬほどうれしくて、でも君は泣いて、しかも謝ってくるから一人だけ無邪気に喜ぼうとしてた自分が情けなくて。』
そう言って彼は一層強く泣いてしまった。でも私の彼が泣きながらでも確かに告げてくれた私への思いを聞いてこんなに愛されていたと知って。幸せで、でもそれと同じぐらい彼を私のせいで殺してしまうのが辛くて、色んな思いが混ざった涙を流した。

お互い、どうにか泣き止んだぐらいに私は彼に自分語りをした。
彼はその話を全部聞き
『信じるよ』
そう言ってくれた。
『でも、それは君が気負うことじゃないよ。だって君は呪われてるって誰かから言われた訳じゃないんだから。それにあまりにも楽観的だとは思うけどもしかしたら君の呪いはもう解けてるかもしれない、もしかしたら明日から普通に幸せな毎日がやってくるかもしれない。そうは思えない?』
私は首を振ることしかできない。
『そっか…でも明日本当に僕が死んだとしてもやっぱり君は責任を感じる必要はないよ』
私は驚いて俯けていた顔を上げる。
『だって僕はさっき君がくれた愛してるで十分すぎるほどに幸せを君から貰ったから。
幸せすぎてきっと死ぬんだよ。』
そう言い、彼は笑った。
『愛してる。』
本当に幸せそうな顔で私にそう告げて彼は背を向けた。
その言葉で私の方こそ一生分の幸せを貰ったのだと気がついた。
今なら愛は虚しいなんて思わない。私でも彼にしてあげられることがある。
だから心からの言葉を君に叫んだ。


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