縁結び様

文字数 3,057文字

街の高台にある神社『天宮神社』では、朝早くから高校生神主が掃除をしていた。
竹箒で丁寧に落ち葉を集め、捨てる。これが結構腰にくる。
と、俺は思った。

『んねー、神主君。…暇なんだけどー』
「なら、掃除を手伝ってください。…隙なんでしょ?」
『それだけは嫌だね』

ふよふよと海の周りを飛び、ちょっかいをかけているのは、この神社の『縁結び様』だ。
俺にしか見えていない為、話し相手も俺しか居ない神様は、退屈そうにしていた。

「海?朝ご飯出来たから、神様の所に運んでくれる?」
「はーい」
『朝ご飯ー!!…昨日は塩鮭だったなー』
「それは、俺の朝飯だ!!」

神様の朝ご飯は、地域の方から頂いたものをお供えする。
野菜や果物等の食べ物の他に、遊び道具も入っている。俺は、荷物を神様がいる社へと持っていった。

「はい。今日のご飯です」
『んねぇ、これなに?』
「あぁ、シャボン玉ですね。こうやって遊ぶんですよ」

神様は、お供え物の中にあったシャボン玉液に興味を示し振り回す。遊び方を教えると、実際に試してみた。
(さてと、俺も朝飯食うか…)

茶の間に居ると母が、魚を焼いていた。昨日と同じだがそれは、まだいい。問題は、神様が一緒に付いてきたことだ。

「なんでいるんすか?」
『私もお魚食べたいからねー』
「だから、俺の朝飯!!」

叫ぶと、母は不思議そうな顔をしたが、直ぐに理解したようでもう一尾魚を焼いた。

「いただきます。…俺の飯ですからね」
『…一口〜』
「自分の飯を食ってくださいよ」
「海、神様ここにいるの?」
「うん。俺の飯を強奪しようとしてる」
『人聞きのわるい!』
「なら、神様。ここに、もう一匹置いておくからどうぞ」

母は、焼き立ての魚を俺の横においた。母は神様が見えていないが、なんとなくの気配はわかるそう。

「…あ、かあさーん。俺今日早帰りー、3時前には帰って来る」
「そう」

俺は帰りの時間を告げ、味噌汁を飲もうとする。が、視界に半透明な球体がでてきた為、手がとまる。
はて?なんかあったけな…。

「神様!?ここでシャボン玉吹かないでくれます!?」
『いやー、ご飯食べて終わったからねー。…それに、君以外には見えてないよ』
「そういう問題じゃないです!兎に角、外でやってください!!」
『嫌だよ、暑い』

それを聞いて俺は、懐から長方形の紙を取り出し神様に見せた。
面白いぐらいに青くなり、静かになる。俺が、見せたのは守護の札だ。
それを使うと神様や妖と言ったものが見えなくなる。
見えると言う事は、あちらもまた見えているという事。
見えるものは、それなりの覚悟と対策が必要なのだ。
話し相手が居なくなるのは嫌なのだろう、しゅんとする神様。俺は満足し、朝食を食べ進める。



ーーーーー
「え?縁を結んでほしい?」
「頼むよ、海!」

学校につくと友達に、土下座をされた。頭を深く床にこすりつけ、お願いをされる。
周りは、俺がなにかしたと思いボソボソと話す。

「うぇ、天宮さん今度は、何したの?」
「関わるなよ、彼奴変人だから」

等と話していた。聞こえていないとでも、思っているのか?聞こえているからな!!
俺は、はっとし友達を椅子に座らせ、事情を聞き出す

「俺、好きな人できただろ?」
「そういや、そんな事言ってたな」
「俺告ったんだ」
「は!?…お前、昨日好きになったばっかりじゃないか…」
「先越されると思って…!告白したら…『え、キッショ』て言われたー!!」

俺はもう無理だァァ!と俺に抱きつき、大泣きする友人。
ほぼ初対面の奴に告られたら、誰でも怖いだろ……。
そう言いたくなる気持ちをぐっとこらえ、友人を慰める。

「落ち着けよ…。神様に頼るのは、最終段階だ」
「え、お前が結ぶんじゃないの?」
「俺は、神様と依頼主の間を取り持つだけ。言わば仲人だ。
 どうするかは神様が、決めるし悪縁だった場合は問答無用でぶった切られる。
 …正直、効果はあるが…、気まぐれだぞ。それに、結んだら一生解けない。
 縁って言うのはそう言うもんだ」
「もう、それでいいから!結んでくれ!」
「金とんぞ」
「いくらだ」
「相場の十倍請求」
「フザケンナ」
「お前の相手への愛はそんなもんか」

俺が言うと友人は、悔しそうに握りこぶしで机を殴った。やめろ、それは俺の机だ。
此処まで話してきてふと思った事がある。

「お前、相手は?」
「…誰にも言わないか?」
「言わないよ、笑いもしない」

そう優しく言うと友人は、深呼吸をしてから俺の耳元で教えてくれた。

「隣のクラスの神崎モモさん…」
「おまっ…!!…そりゃ、振られんだろ…。いちゃ悪いが、あの人のタイプは低身長。お前の真逆。
 それに、料理上手で裁縫もできる人希望だぜ?」
「ワンちゃんあるかなって…!!」
「ワンちゃんも、ネコちゃんもなかっただろ…」

埒が明かないので、放課後神崎さんと友人の縁を、神様に直接見てもらうことにした。
神崎モモとは、黒髪ロングヘアーのthe清楚な人。モデルをやっている噂もあり、スタイルがとても良い。
友人は、顔は整っては居るものの神崎さんのタイプからは、程遠い。
休み時間、俺は神崎さんがいる隣の教室へと向かった。

「神崎ー。呼ばれてんぞー!!」

入口近くに居た奴に呼んでもらった。
神崎さんは、俺を見るなり笑顔で走ってきた。

「ごめんなさい、休み時間に…。俺、隣の教室の天宮海って言います」
「知ってるよ、縁結び様の所の子でしょ?」
「えぇ、まぁ。…今日の放課後空いてます?」
「空いてるわよ。…もしかして縁見てくれるの!?」
「はい」
「やった!!何時か頼もうと思ってたの…!」

俺はなんとかして神崎さんを神社につれてこれた。もちろん、友人は他の部屋に隠すが…。


家に帰り、正装に身を包む。神様は、屋根の上でお昼寝中だったので叩き起こし仕事をさせる。
神崎さんは、正座し真剣な顔をして前をみつめる。神様は、目を細めて神崎さんをみつめる。

『神主君。…これはだめだ、色が悪い』
「本人の?それとも…」
『本人の色はいいよ、ここのまま行くと金運が上がるね。宝くじを買うと良い。…ただ、君のご友人との縁は悪いね。』

俺は、友人との縁を伏せ神崎さんに告げる。宝くじを買うとウキウキしていたが…、友人をどう慰めようか…。そう思いながら、友人が待っている部屋へと向かう。

「単刀直入に聞く、どうだった?」
「…だめだな、お前と神崎さんとの縁は無に等しいらしい」
「まじかよ!?…俺…立ち直れない…」
『人間って、そこまで縁を大切にするかね…』
「人間社会には、一期一会って言葉がある。出会いは、奇跡に等しい」

友人は、絶望しきった表情をみせた。俺には、縁が見えない。神様は見える。
このときばかりは、神様がとてもうらやましかった。
5時のチャイムが鳴り、友人は家に帰った。

「神様は、自分自身の能力を恨んだことはありますか?」
『無いよ。そもそも、私は人間じゃない。…まぁ、生きていたい人と生きれない事だけは、
 嫌だよ』


ーーー
次の日の学校では、友人がイメチェンをしていた。

「神崎さんの、タイプに染まる事にしたぜ!」
「…努力の方向性を間違えるなよ?」
「というわけで、海。料理を教えてください!!」

やっぱりかーと、また土下座をしている友人を見て思った。
そう、こいつの料理センスは壊滅的にない。おにぎりを作れば、何故か焼こうとする。
パスタを作れば、塩と砂糖を間違える。レンジにアルミを簡単に入れてしまうのだ。

「…教える事はないが…、努力出来る事は偉いぞ」
「やっぱ、持つべきともは海だよ」

友人に抱きつかれたので、引っ剥がし支度を済ませる。
この時は、能力を持っていて良かったと思った
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登場人物紹介

 天宮海

高校2年。神様が見える特殊な能力を活かし、依頼主と神様の中を取り持つ役割を担う。神様に振り回されているが、幼い頃からの事なので慣れている。

 縁結び様

海を振り回す事が、生きがい。海にしか見えていない為、海が学校に行っている間は、神社の屋根の上で地域猫と一緒にお昼寝又は、日向ぼっこをしている。縁は、紐のように見えており、色が綺麗で澄んでいる物ほど良好らしい。

 神崎モモ

黒髪ロングヘアーのthe清楚。タイプは、低身長で料理上手、裁縫も出来る人希望。

海の友人に好かれるが、本人は始めましての状況で告られる

 友人

海の友人。モモには一目惚れする。海に名前を名乗っていない状態で友達付き合いを始める。

当初、不審者だと思われ、海から背負い投げをくらった

 部長

友人の従兄弟。弓道部の部長で、海の相談相手。動物と話せる能力を所持している。

生徒会長も務める、超人

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