推しの縁

文字数 2,939文字

「かっこいぃぃー♡」
「本当に、桐生君顔面国宝すぎ」

昼食時の中庭。クラスの女子達は一箇所に集まり、雑誌を読んでいた。
雑誌の表紙には、先日若手俳優賞を獲得した俳優、桐生勇斗が写っていた。

「…神崎さんも、合う言うの好きなの?」
「何言ってんのよ。…私が好きなのは、あなたしかいないでしょ。ばか」
「か、神崎さん!!」
「…あのさ、よそでやってくんない?」

お弁当を食べる俺を2人で挟んで会話をする。
気まずいたらありゃーしない。
そういうと、2人はえ?と言い。しばらく黙る。

「2人は、付き合ったんだろ?…なら、2人で飯食えよ…」
「いや…、海は仲を取り持ってくれただろ?だからー…」
「天宮君抜きで、ご飯食べるのもなんか変じゃん?」
「心遣いは、感謝する…。だがな!!俺を挟むな!!」

俺の声は中庭中に響いた。

ーーーーーー
「というわけで、どうにかしてください」
『わーぉ…。そうきたか…』

神様は、意外そうにたいやきを頬張る。
俺が神社の敷地から出られない神様の為に買ったものだ。
リスのように、食べ勧めている神様は、チラリと窓の外をみた。

『…お客さんだよ』
「え。対応してくるので、それ食べて待っててください!」

俺は慌てて袴の紐を締め直し、出迎える。
慌てすぎて、廊下の角をすべり。玄関を通り過ぎかけた。

「あァァァ!!」

玄関で草履を履いたが、片方を履きそこね派手に転ぶ。
玄関のドアにぶつかると思い強く目をつむる。

「うっ…!」
「へ!?…わ!ごめんなさい!!」

俺は、ドアを開けてきた人とぶつかり、ぶつかった人はそのまま下敷きになったまま
倒れ込む。
騒ぎを聞きつけ、母がお玉を持ったまま出てきた。

ーーーーーー
「ほんっっ.........っっとうに申し訳ありませんでした!!!」
「いえ…、アポ無しできた僕も悪いですし…」

俺は、客間に深く頭をこすりつける。
依頼主を傷つけるのは禁止されている。…あー、父さんに説教される…
依頼主は、黒い帽子にサングラスをしていた。あと、マスク。
春先の今ならではの服装だ。重度の花粉症らしい。
手荒れがなく、色が白い腕。帽子を被っているが、
少し見える栗色の短髪は管理が行き届いていているようだ。

「えーと…。依頼内容は…」
「あ、まず先に自己紹介を…。僕は、桐生勇斗と言います」
「き…、桐生勇斗って…、今話題の!?」

帽子と、マスク、サングラスを取りながら自己紹介をする桐生さん。
お茶菓子を持ってきた母が、驚いた声で言う。
あ、俳優さんか…。

「知っていただけ幸いです」
『神主君、だれこの人?』
「桐生さん。俳優を努めている方だよ。
この間の、月九【先生方程式教えてください】で、
主演を勤め上げ若手俳優賞を受賞したよ」
「お詳しいのですね」
「同級生が、よく話しているので。…というか、俺がいきなり
説明したのに驚きませんでしたね…正直、驚きまた。」

そう言うと、桐生さんは恥ずかしそうに頭をかいた。

「いやー、僕ずっと貴方に会ってみたかったんです」
「…俺に?神様じゃ無くて?」
『神主君。彼、私の事見えてるわよ』
「へ!?…まじで?」
「はい、大マジです。…始めまして、縁結び様」
『神主君の家系以外で、初めてみた…。でも、君は…』
「はい、この通り目が悪いです」

桐生さんは、ニコリと笑い目を指差す。
目が悪い。つまりは…、どういう事だ?

「縁結び様に、僕と目の縁を結んでもらいたい。…勿論、依頼料は言い値で払いますが…もし、結んでもらった場合、一億は払う予定です」
「い…、一億!?流石に、そこまではもらえません…。いって、30万までです…」
『神主君、彼何が何でも一億払うつもりよ』
「え…。一億もいりません!!」

俺は、必死に言う。
じいちゃんとの、約束だからな。
俺の家系では、『神様を視認し、お告げを聞くもの』が生まれる。
何代も前の話だが、縁結び様の力を私利私欲の為だけに使い、身を滅ぼした巫女が居たそうだ。
神様いわく、あのときはお腹抱えて笑ったね。だそうだ。
この人、桐生さんは何なのだろう?

「僕は、心が読めるんです。だから、神様の存在もなんとなくわかる」
「すご…。俺の力より、すごい…」
『適材適所だよー。…神主君、彼の縁を結ぶわ』
「え、良いんですか?」
『貴方の、演技の縁は酷く澄んでいる。初めて見たわ。…ただ、努力を忘れないでね』

そういい、神様は桐生さんの頭上に手を持っていき、紐を結ぶような動作をする。
桐生さんは、目を伏せ結ばれるのを待つ。

『はい、完了よ』
「ありがとうございます。…そうだ、神主さん」
「はい…、神主ではなく、天宮海です」
「では、海君。今度、演劇をするんです。…ご友人を誘って来てくれませんか?」

桐生さんは、俺の両手をがっしりと握りチケットをもたせる。
これ、断る選択肢がないパターンだな。
そう判断し、俺はチケットを受け取る。

「それでは、また来ますね」
「あ、はい。お気をつけて」
『次来るときは、和菓子を所望するわ』
「神様!!」

神社の階段で俺は桐生さんを見送る。
神様が、変な事を言うので物理的に攻撃する。ダメージは入らないが、それなりに
本人に効くらしい。
桐生さんに、和菓子を所望したら値段が怖くて聞けないような物を持ってこられる…。
何故か、直感でそう思ってしまい桐生さんを見る。

「それじゃ、また今度。海君、見に来てねー」

月が役割を引き継ぐまでの時間は、とても神秘的だった。

「さ、帰りましょう。…神様…?」
『え…?ボーっとしてた』

声をかけるとポケーとしている神様が目に写った。

「チケット、どうしよう…」
『君が行けばいいじゃない』
「俺は、演劇詳しくないし…、あのカップルにあげるか…」
『…他に友人居ないの?』
「神様、久しぶりに喧嘩します?」

地雷を踏まれたので、こちらは答えなければならない。
神様は、焦っていたが別に、気にはしていない。

『ふむ…。んじゃ、一匹狼君』
「それ、俺のあだ名ですか?」
『あの人以外友人いないみたいだし…』
「ほっといてください。…俺は、神様だけじゃなくて霊も見えるんですから、怖がられるのは当然でしょう?」
『声に出さなければいいじゃない』
「…はっきり、人のように見えるんです。だから、区別がつかない」


ーーーーー
「今日公式ホームページにて、俳優桐生勇斗さんが目の手術をする事を公表しました」

夕飯のサバの味噌煮を口に運んでいる時に、テレビで桐生さんが出ていた。
目の縁を結んだのはこれか…。
そう思いながら、味噌汁を飲んでいると記者が、桐生さんに質問している映像が流れた

「今回の手術、成功率がかなり少ないとお聞きしましたが…、心境は?」
「確かに、失敗すれば俳優として活動は断念せざる終えません。…でも、僕には最強の神様がついているので!!!」

太陽のように笑う桐生さんは、カメラに向かってピースサインをしてこう言った

「縁結び様、また遊びに行きますからね!!神主君も、待っててね」

俺は、味噌汁が入ったお椀を落とした。
母さんは、付近を持ってきてくれたが感謝の言葉を忘れる程であった。
近くを読んでいた神様も驚いていた。

『あの人、相当ね…』
「そのまま、最強の神様って言っておけばファンの事だろうと思われて終わりなのに…。なぜわざわざ…」
『つくづく人はわからないわねー』

次の日、神崎さんたちに質問攻めに合ったのは言うまでもない
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登場人物紹介

 天宮海

高校2年。神様が見える特殊な能力を活かし、依頼主と神様の中を取り持つ役割を担う。神様に振り回されているが、幼い頃からの事なので慣れている。

 縁結び様

海を振り回す事が、生きがい。海にしか見えていない為、海が学校に行っている間は、神社の屋根の上で地域猫と一緒にお昼寝又は、日向ぼっこをしている。縁は、紐のように見えており、色が綺麗で澄んでいる物ほど良好らしい。

 神崎モモ

黒髪ロングヘアーのthe清楚。タイプは、低身長で料理上手、裁縫も出来る人希望。

海の友人に好かれるが、本人は始めましての状況で告られる

 友人

海の友人。モモには一目惚れする。海に名前を名乗っていない状態で友達付き合いを始める。

当初、不審者だと思われ、海から背負い投げをくらった

 部長

友人の従兄弟。弓道部の部長で、海の相談相手。動物と話せる能力を所持している。

生徒会長も務める、超人

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