第2話 俺たちは賢者じゃない

文字数 1,802文字

はいさい!わったー、波照間克子。78さい。ここ波照間島で民宿「しらはま荘」を切り盛りしてます。
さてマブイについて説明するさぁー。
うちなー(沖縄)では文字通り魂と書いてマブイと読むんだけどねえー、まあ内地の方々には気力。とか元気玉とでも解釈してもらおうかねー。

朝起きたらなんかだるい、動く気力がない。ってゆー人の事をうちなーでは、

マブイ落とした人。と呼ぶさぁー。
はい、
「なんか元気ないねえ」のうちなー訳「マブイ落っことした」

リピート、アフターミー?
ん?わったーをヤバい人と疑ってるね?バッドですね。
もう一度!気持ちにためらいがあるよ。

うん、そうそう。
はーあ、甲斐性なしの孫エーシンを誰か婿にもらってくれないかねー。


「って、オバア!誰に話しかけてるのさぁ?」
とエーシンの声がオバアを現実に引き戻した。京子さんは相変わらず動けない体で、目だけ動かして自分を取り囲む人々、つまりしらはま荘にいる全員を見渡すことしかできないでいる。

その中から大学生らしき若者が二人、特に外人の方はドヤ顔で「急な体調不良ならお任せください。なんたって俺たちは医学生ですから!俺は野上聡介、医学部三年外科志望、それから隣にいる小太りは同級生の篠田博通、名を明かせば全国的に有名な産婦人科病院のせがれで、あーる」
と肩をそびやかして医学生二人は自己紹介した。

野上くんは「海人」Tシャツ、篠田くんは「やなわらばー(悪ガキ)」Tシャツを着て。

三年は、まだ使えねえな。
と京子さんは動かしてみたら使える右手でエーシンに差し出されたスケッチブックにマジックで殴り書きし、医学生コンビに突き付けた。

野上くんのMP(メンタルヒットポイント)は60下がり、篠田くんのMPは75下がった。

「お姉さん医学部の事に詳しいね。確かにこの子たちは基礎医学を終えたばかりで夏休みが明けると臨床医学に入る。学生たちにとっては、
ようこそ、現場の地獄へ。だ。私の名は桂祐吉(かつらゆうきち)、K大医学部教授でこの子たちの師匠の一人でもある。確かに、この子たちは今は使えない。なーにがお任せください、だ。調子こきやがって。単位やらねえぞ、と思ったぐらい私もムカついた。さてはお姉さん医療職だね?」

とずんぐりむっくりおっさん桂教授はそこで言葉を切って、京子さんの目を覗き込む。
京子さんは、イエス。と一回まばたきをした。

私は、産業医です。

「あいや!京子さんお医者さん?そりゃうちなんちゅもびっくりさあ」

いちいち合いの手入れるなよ、エーシン。

と京子さんは思ったがシュノーケリングの教え方で根はやさしい男だ、と感じていたのでスルーしてあげることにした。

「とゆー訳で私はちゃんと資格持ってる医師だからあなたを診察してもいいかね?もちろんオバア以外は部屋から出ていってもらうけど」

と桂教授の指示で他の宿泊客とエーシン、エーショー兄弟は食堂で焼き魚に焼いた薄切りスパムと、パパイヤの味噌汁にゴーヤの味噌漬けとごはんはおかわり自由というボリュームのある夕飯を平らげ、診察が終るのを待った。

やがて、教授とオバアが部屋から出てくると教授は「身体的にどこも悪くはないんだがなあ…やはり職場ストレスによる鬱状態だろう。産業医というのはビジネスマンの愚痴聞きまくるストレス過多の仕事だからなあ…」と首をこきっ、と鳴らしてから朝食の席に着いた。

「だーかーらー、マブイ落っことしたって何度も言ってるさぁ。解らんお医者さんだね」

「それでは沖縄の人はマブイを落とした人にはどう対処するのですか?」と、夫婦連れの夫の方が眼鏡の奥を好奇心で輝かせて聞いた。

やっと話を聞いてくれるナイチャーがいた!

とばかりにオバアは「よくぞ聞いてくれました。それは何処で落っことしたかその人の足取りを辿ってね、マブイを見つけて拾って、京子さんの口な戻してあげるのさぁ」

「と、いうことは昨日の京子さんの足取り?」

「yes」
とエーシンの問いに何故か英語でうなずくオバアであった。

(え、えーと…マブイって実際見えるもんなの?)

と野上くんがなんかヤベえワールドに入っちまったぞ。とこわごわと隣の席のエーショーに耳打ちすると、

「見ようとするな、感じろ!」と克子オバアの叱咤と「これから京子さんの足跡捜査さあー‼️」のエーシンの号令のもと、

宿泊客たちはマブイ捜査に駆り出され、かくしてここしらはま荘は、

「鍛冶京子さんのマブイ捜査会議」の本部となったのである。

























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登場人物紹介

ヒロインは私、鍛治京子。仕事に疲れて日本最南端波照間島まで来ちゃいました。

おりたぼり〜(八重山方言でいらっしゃい)。俺、波照間英進。しらはま荘を切り盛りする克子オバアの孫で京子さんに一目惚れサァ。職業は後半明かすから。

はいさい!民宿の女将、克子オバアさぁー。重要ワード、マブイとは元気とか生気サァ。宿泊客につきまといはバッドよ!エーシン。

使えない医学部三年生の野上です。十年後には外科医として頑張ってる俺、作者の別作品「電波戦隊スイハンジャー」に出てます。

K大医学部教授の桂です。軽薄な教え子が撮ったアザラシ画像は引率権限で削除させました。野上くぅん、2003年設定じゃなかったら流出した画像炎上させてたよ。

えっ?なぜに?

波照間島のアザラシおっさんの正体は名を知られる企業代表や政治家だったりするんだ。離島まで逃げないと身分を隠せないって、辛いねぇ。教え子の将来守るのは師としての務めだから。

げっ…

宿泊客、田所夫妻の夫の方、洋一です。京子さんの初恋&失恋の回想、しんみり…させてくれないエーシンさんの凶行未遂。止めるの大変でした。

田所夫妻の妻の方、佳代子でぇす。見た目はゆるふわお姉さんですが、キレて野上くんを泣かせる直前まで叱りましたぁ。

ヒロイン鍛治京子が同窓会で職業柄、ガードの固さ発揮しつつも初恋の人と再会。


泡波と夕焼けと音楽は心のガード(理性)崩しますよねえ…ズルイわ、エーシンさん。

貴弘くんとの食事で解った真実。あのね、毒親、って単語で片付けられないおぞましい思いをしたの。

他の男と辛いトラウマの話している女性につけ込むような仕草はしてはならないよなあ…

エーシンの弟エーショーです。淡々とマニアックグルメの話する田所夫妻が怖かったです。

私、知花由里花は克子オバァの遠縁の大学院生。一話からモブで出ています。中学から内地の学校に進学する沖縄っ子(物理的に学校が少ないため)って多いんですよ。

なんてこった…エーシンさんが負った傷が一番深いだなんて。京子さん、何話し始めるんだろな?

最も辛い傷を負った私も、覚悟を持って「旧時代の遺物」に対峙します。

報復を終えて燃え尽きて、「海が見たい…」に至った経緯です。

エーシンもやっと立ち直ったねー。オバァが見送った帰らぬ人々。

えへへー、最後は乗り合わせ客たちのカチャーシー(お祝いの踊り)でエンドさぁー。

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