第3話 BL
文字数 797文字
コッチ・・・コッチ・・・
チッコ・・・チッコ・・・
柱時計の振り子が見つめる先は
同じ色の喫茶店の金文字。
そのガラス戸の反転文字が見つめるのは
壁にもたれて座るワイシャツにサスペンダーの猫背の男。
その男の見つける先にはカウンターと
男が注文したコーヒーを淹れるマスター。
吐き出した煙のスクリーンには三白眼の男が映る。
男は店主の呼びかけに咥え煙草のまま応える。かさついた声音で人当たりの良さそうな顔だが、目の下の隈がいかにも不健康そうな印象を与える。
コーヒーを手に元居た席に着くと節くれだった指で煙草をはさみ、コーヒーを一口飲んだ。
そこへ店のガラス戸ががらりと開く。
戸口にはガタイの良い白シャツ姿の男が一人。頭の下半分を刈り上げ、上半分は小さく団子状にまとめられている。手には白い箱が一つ。とび色の目に店主が映りこむ。
男の声が引き締まった体躯から低く響いた。
刈り上げの男は煙草の男の横に腰かけた。ふたりの肩幅は倍近く異なる。
煙草の男は灰皿に煙草を押し付けながら問いかけた。
どうやら刈り上げ男の持つ白い箱のことのようである。
刈り上げ男は身をかがめながら白い箱を開けた。その体躯に似合わずなんとも嬉しそうな背中が柱時計に映り込む。
鳥の巣のような頭の三白眼がへらっ笑うと、あたらしい煙草に火をつけた。
箱の中にはショートケーキが二つ、行儀よく並んでいる。
刈り上げ男からの問いかけに、三白眼が見開かれる。
意外そうな声で聞き返すと、
これまた意外そうな声。
食べたくなさそうである。
刈り上げ男のほころんだ顔と三白眼の固まった顔のほかにどんな顔があるのか、誰も知らない。