第1話 アリとセミ

文字数 1,088文字

 アリ達が地面を這いつくばって、せっせせっせと地中の巣穴へと食糧を運んでいます。八月の日中、ギラギラとした太陽に照らされた地面はうだる様な暑さです。

 「君達、よく働くなあ。この暑いのに」
セミは高い木の上に留まって、シャーシャーと高らかに歌を唄いながら、お腹が減ると木陰で樹液スイーツに舌鼓をうつ優雅な毎日です。

 「もうすぐアキが来るんだ。アキが来たら、大変なんだぞ。第一、僕たちはみんなバイトなんだ。生活が大変だから皆せっせと働かないと」
 アリ達は、滴る汗を日本手拭いで拭いながらせっせと働くばかり。
 「暑いな。でも、アキが来るから備えなきゃ。セミ君、キミはオスだから歌を唄えるけどメスは唄えない。メスのヒト達はどうやって食べてるの?」

 「メス達は、整形をしたり豊胸手術をしたりてセミヌードになってグラビアで稼ぐのさ」
 セミは、上から目線です。
 
 「そんな高みにあって優雅な人達も詐欺まがいなことをしていたら、アキが来たらひとたまりもないんだからね」
 アリ達は、憤懣やる方ないといった様子です。

 「こんな美味しい生活、アキることはないね」
 何か誤解しているセミは、木の高みからオシッコをアリ達に引っ掛けると飛び去りました。
 「アリえないね。君達は。所詮、僕と君たちとは生まれつき身分が違うのさ」

 噂のアキが来ました。森の木々は枯れ始め、冷たい秋風が吹き始め、樹液もなくなりました。
 
 「うーむ、寒い。身を隠すところも無いし、食べ物もなくなった。腹が減ったなあ」
 気がつくと、セミ君はホームレスとなり遂にはチカラ尽きて木の高みから墜落し地面にポトリと落ちました。

 「ほら、いわないこっちゃない」
 アリ達は、セミ君を取り囲んで哀れみました。

 「寒いし、食べ物もないんだ。君達の家に連れて行ってくれないか」
 セミ君は、震えながらアリ達に懇願しました。

 「いいよ、ボク達の家は地下にあるから風が当たらないし、食糧だってどっさりあるんだ。
 キミ一人ぐらいなんとかなるよ」
 バイトリーダーのアリは、皆を動員してセミ君を巣穴の中に運び入れました。


 「あれ?セミ君が動かないぜ」
 暖かい巣穴の中に着いた時、セミ君は既に息を引き取っていました。
 
 うつせみの ひとはえいがに よひしれて

 秋風ふけば なるうつせみ

 アリ達は、セミ君の菩提を弔うと丸々と肥えたセミ君を解体して食糧にし、冷凍保存すると次に来るもっと厳しいフユに備えました。

 「これで、安心だね」
 
 
 
 
 

 

 

 

 

 
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