第3話 クワガタおじさん
文字数 535文字
クワガタおじさん
僕の街には、クワガタおじさんという面白い人がいた。
両腕の力が滅法強くて、町内神社の奉納相撲では大人たちを土俵の外に投げ飛ばして、いつも優勝していた。
彼の得意技は、カイな力を利用しての鯖折りと吊り出しで、その格好があたかもノコギリクワガタに似ているところから、その異名になった。
クワガタおじさんはまた腕力が強いだけではなく、正義感も強かった。夜、パトロールをして近所の居酒屋で揉め事があると、酔漢を排除するのだ。
それはあたかも、樹液にたかる蜂や蛾を角で追い払う森の王者、ノコギリクワガタそのものであった。
クワガタおじさんはまた朝早く起きては森に行き、クワガタを捕まえるのが得意、とってきては近所の子供に配るので、喜ばれていた。
しかし、そんな街の英雄クワガタおじさんも秋風が吹く最近では、めっきりみかけなくなった。
居酒屋で酒に酔ったクワガタおじさんが、酔狂で女性客につり出しをしたり、鯖折りをしてはしゃいでしまったのだ。
女性客が、「きゃー痴漢!」と騒いだために、警察が飛んできてクワガタおじさんは連れて行かれた。
秋風が吹いた。
森からクワガタが居なくなった。
クワガタおじさんも警察署に拘留されて、街では見かけなくなった。