第24話 小さな探偵

文字数 2,099文字

「どうしましょう?たぶん、主犯格である尾張を捕まえる事が出来ましたが、パーティはお開きという事で?」

私はピエール尾張こと尾張照明(おわりてるあき)が居なくなってから鷲尾元斎に意向を聞いた。

「うむ、そうじゃの椿も入院してしまっては(もてなし)にも不備がでるじゃろうし……」

元斎はそう言って(うなず)いた。

「いや、父さん。桜もこう見えてなかなかやるんだよ?なあ桜?」

突然、元也に褒められて桜は焦った。

「え、あ、はい。椿さんには及びませんけど……居なくなる椿さんに代われる様に精進しています」

そう言って少し照れながら満更でもない笑顔を見せた。

「ん?居なくなる?」

元斎は聞き返した。

「え?いえ、椿さんはあの……ご高齢なので、お辞めになるって……元也さんが」

「なんじゃと!ワシは聞いとらんぞ!!」

元斎は元也を睨んだ。

「あ、いや、父さんはほら三年ほど入院して不調だったから、要らぬ心配をかけるのもなんだと思って……こちらの事はこちらで…」

「おい!いつからお前そんなに偉くなったんだ?しかも椿を辞めさせる?ふざけるな!」

元也は元斎の剣幕に縮み上がった。

元斎も興奮して客人が居ることを忘れている様だ。

「ご、ごめんよ父さんがそんなに怒るとは思わなくて……で、でも、椿も1つ返事で既に出ていく為の部屋も借りてるって言うし。そんなに未練はないのかと…」

「ばかな。そんなはずは……ない。あいつは20歳の頃からここに仕えて…ワシの…」

元斎はそこまで言うとガックリと項垂(うなだ)れた。

「あ、あの。そういう話は椿さんが回復してからゆっくりとうちうちでされた方が……」

私はこんなに我をわすれる元斎を見たのは初めてだった。

そういえば、椿さんが倒れているのを見つけた時も…。

そこまで考えたとき客人の中で手を上げてる小さな女性に気が付いた。

「お花摘みでしたらそこからでて右の奥ですよ。(小声)」

私はその小さなレディが恥をかかない様に側まで近づくとそっと耳元で(ささや)いた。

「ち、違います!」

小さなレディは頬を少し赤くして否定した。

「おや、ちがいましたか……ではなんですか?」

「あの、ちょっと質問がありまして」

「なんでしょう?」

「先程、ピエールさんの本名を言われたと思いますけど、どんな漢字なんですか?」

「漢字?ええと、明るく照らすと書いて照明(てるあき)です。なかなか良い名前ですよね」

「それ偽名だと思います」

「え?なぜです?」

「逆に読んで下さい」

「逆に?……きあるて…」

「そ、そうではなくて姓と名を逆です。あと尾張はそのままで名前は読み方を変えてみて下さい。」

照明(てるあき)の違う読み方?……しょうめいですか?……あ」

「そうです。しょうめいおわり」

「あいつ!やっぱり怪盗QEDか!」

私は興奮して言った。

「そうだと思います。なので、あの人は犯人ではありません」

「ですよねぇ、全く……え?」

「たぶん、あの人が怪盗QEDで間違いありませんので、犯人である可能性は低いと言ったんです」

私は2回同じことを聞いたのだが、ちょっと言ってる事が分からなかった。

まあ、相手は子供だし、そういうこともあるだろう。

私は大人の余裕を見せるためにニッコリと微笑んで頭を撫でようとした。

「きょうちゃん。何かわかったのかの?」

元斎が突然驚いた様に言った。

「おじ様その呼び方やめて欲しいんですけど」

「いやいや、これは仕方なかろうて。きょうちゃんはきょうちゃんじゃからのう。ふぉふぉふぉ」

いつもの様に笑う元斎をジト目で見る少女。

「せめて、ちゃんとしきょうと呼んでください」

「これは悪かった。して、しきょうちゃん。なにか分かったんじゃろ?もしかして犯人か?」

元斎さんまで、何を言っているのかわからなくなってきた。

大勢の大人が頭を抱えている状況をこの子供に解決できるわけが…。

「はい」

その少女はフルネームでちゃん付けされる方が一層恥ずかしい事に気が付きながら、そう答えた。

「あの…元斎さん?こちらのお嬢様とはどういった御関係で?」

「御関係もなにも、わが優秀な孫じゃ、そのへんの大人が束になってもかなわんじゃろうて」

そういうと元斎は相好(そうごう)を崩した。

「ちょっと、おじ様、誤解を招く様な言い方は良くありませんわ」

少女は驚いた様にそう言った。

「ふぉふぉふぉ、まぁ、孫と言うのは冗談じゃが……孫になって欲しいというのは本当じゃ。そうなれば鷲尾の安泰は間違いないからのう」

そう言って元斎は遠い目をした。

「なるほど、元斎さんがこちらのお嬢様をかなり買ってらっしゃるのはわかりました」

世の中には色々な分野で大人顔負けの力を発揮する子供がいる。

彼女も多分何らかの分野で名がしれているのだろう。

しかし、これは実際の事件である。

いくら元斎の肝いりと言われても素直にはいそうですかと聞く事はできない。

しかも、怪盗QEDは犯人ではないという様なトンチンカンな話をする女の子の話を鵜呑みにする訳にはいかない。

「どうも信じてない様じゃな……」

元斎は私の様子を察してそう言った。

「え?いえそんなことはありませんよ」

はいそうです。とは言えずについ心にも無いことを言って私は愛想笑いをした。

「なら、なにか質問してみたらどうじゃ?」

元斎に詰め寄られて私は仕方なく質問することにした。













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