うちみず

文字数 919文字

 夏がやってきた。ぼくはむねをときめかす。おかあさんに会える!
 おとうさんが車でえきまでおくってくれる。
 おとうさんとたくさん、話したいけど、だまっておく。だって、話しかけるといやな顔、されるから。
 おとうさん、たばこすってばかり。
 いってきます。
 ああ。

 ひとりで電車にのって、大きなえきでおりて、くうこうへ。きょねんも来たから、だいじょうぶ。ひこうきにのって、ひとっとび。そこはもう、おかあさんがすんでいる町なんだ。
 むかえに来てくれた、大すきなおじちゃんといっしょに、おばあちゃんの家へ。にわいっぱいにひまわりがさいている、大きなお家。
 いとこのおにいちゃんや、おねえちゃんたちともあそべる。
 ねこはどうしてるかな。元気かな。
 そうめん食べたり、ラジオ体そうしたり、ゆうえんちにつれてってもらいたいな。
 およぎに行って、なまこや、うにをつついてあそびたいな。
 楽しみだな。

 おかあさんは知らない人になっていた。
 きょねんはあんなによろこんでくれたのに。
 夜おそくまでぼくの知らない人たちと帰ってこなかった。
 でも、がまんしなくちゃ。じゃないといやな顔、される。
 明日はおにいちゃんが、バッティングセンターにつれてってくれるんだ。

 えんがわにねころんで、ねことあそんでいると、おかあさんが出てきて、門の前に水をまきはじめた。
 ぱしゃ、ぱしゃ、ぱしゃ。
 ぼくはだまってみつめる。おかあさん、すこし年をとったみたい。
 いきなり、雨がふりだした。夕立のような、すごい雨。おかあさんが何かいいながら家のなかに入ってきた。
 最低。せっかく打ち水したのに。嫌になる。
 そうして水たまりにバケツをなげすてた。
 うちみずって、なんだろう。
 おかあさんに聞くのはこわいから、あとで、おばちゃんにでも聞いてみようかな。

 ただいま。
 ああ。
 むかえに来てくれたおとうさんの車にのって、こうそくどうろでぼくの家へとむかう。
 おとうさんとたくさん、話したいけど、だまっておく。だって、話しかけるといやな顔、されるから。
 おとうさん、たばこすってばかり。
 楽しかったか。
 え。
 すし、食べるか? 腹、空いてるだろ。
 そういって、おとうさんは車のスピードを出した。
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