第1話

文字数 1,293文字

 今を去ること4年前の6月に、高校の同級生が山形の庄内に遊びに来た。
 皆いい歳になり少しは暇と余裕ができたのか、9名の参加者が集まった。高校は都立だったが、山形県鶴岡市で育った同級生が一人いて、その彼女が主に計画し、私が現地の引率者で修学旅行のようになった。
 待ち合わせのJR山形駅の改札口に迎えに行った。
 「お~い! 着いたぜ。」
 懐かしい顔ぶれが山形新幹線のホームから階段を上がってきた。
 「私、ちょっとトイレに行ってくる。」
 「あれ、T君がいないよ、どこに行った?」
 「ふ~、ちょっと休憩。」
 皆、好き勝手でまとまりのないこと(おびただ)しい。発車チャイムが鳴ってヒョイと電車に飛び乗り、華麗な身のこなしで山手線で通学していた当時の面影はない。
 極め付けはいい歳のおばさんになった同級生の
 「山形、遠いっ! 山形新幹線、遅過ぎっ!! 京急(けいきゅう)*より遅いんだもん。」
だった。(*京急(けいきゅう):東京の都心から、羽田空港・横浜・三浦・三崎口をつなぐ京浜急行電鉄(けいひんきゅうこうでんてつ)の略)
 写真は2020年2月22日に撮影した、疾走する泉岳寺行きの京急の快特(快速特急)列車である。


 一方で、山形新幹線はこの7月1日で開業30周年を迎えた。JR東日本は東京~福島・新庄(しんじょう)間を結ぶ「つばさ」号を「山形新幹線」と呼んでいる。
 この山形新幹線は、法律(全国新幹線鉄道整備法)上は新幹線ではない。
 本来の新幹線は「フル規格新幹線」と呼ばれ、主な区間を時速 200km以上で走り、踏切を設けない直線的なルートによる新幹線のことを指す。福島~山形・新庄間の在来線の奥羽本線を最高速度130 km/h で走行する山形新幹線は、いわゆる「ミニ新幹線(新幹線在来線直通運転)」である。途中に踏切があり、さらに関根~赤湯、北赤湯信号場~羽前中山(うぜんなかやま)、山形~芦沢(あしさわ)舟形(ふながた)~新庄の単線区間が4カ所もある。単線区間の途中で新幹線が対向列車とすれ違いのため、途中駅に停車するのだ。こんこんと雪が降る中、対向する鈍行列車とすれ違うのを待つ風景は、疾走する新幹線のイメージとは程遠い、のんびりがぴったりの光景だ。
 さて、写真は 2017年7月8日に奥羽本線舟形-新庄間で撮影した下り山形新幹線「つばさ」号だ。

 終点の新庄は山形県の北東にある人口約 33,000 人の都市で、庄内からは内陸に最上川を(さかのぼ)ること約 45km の距離に位置する。JR陸羽西線(2022年5月14日から2024年まで伴走する国道のトンネル工事のため全線休線で、バス代行中)で繋がれている。
 庄内の余目(あまるめ)駅と新庄駅には決定的な差がある。
 羽越本線余目(あまるめ)駅発の上り特急「いなほ」号新潟行き、(かた)や奥羽本線新庄駅発の山形新幹線上り「つばさ」号東京行き。どちらも2時間に1本程度の運行だが、上り方面の行き先が新潟と東京では天と地との差なのだ。
 新庄からは新幹線1本で東京に繋がっている。庄内の人たちが上越新幹線の酒田までの延長、山形新幹線の余目までの延長を熱望している訳が、庄内に住んでよく理解できるようになった。
 東北の僻地(へきち)では田舎の新幹線、それは夢の新幹線なのだ。

 んだんだんだんだ!
(2022年7月)

 
 
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