1話 上を向いて歩いた結果

文字数 2,784文字

「おっとっと……うひぃ……」



 無重力状態から開放されると、そこは思わず声が出てしまうほどに綺麗な中世の街並みだった。通りかかる人達が皆、腰や背中に武器を持ち、正しくファンタジー感漂うまるで俺が追い求めていた世界のよう。



 周りのなんか凄い服装と比べ、俺の服なんかは普通に寝巻きだ。



 そんな通る人や普段見ることのないような建造物が並ぶ街を見ながら、ただ歩く。

 だが、俺のこの優雅な散歩はある時を迎え、突如として終わった。



「んだてめぇ……?」



 上ばっかり向いていて、気が付いたら修羅場となっていた場所に入っていたらしい。



「あ、あれ?」



 眉間にシワを寄せた随分と歳上の男性がほぼゼロ距離で睨みつけてくる。



「てめぇだよてめぇ。何か文句でもあんのかっつってんだよ」



 すぐさま周囲を見渡す。そこには一人の少女が大勢の男らに取り囲まれている様子が伺えた。



「俺らのやり方に文句でもあんのかっつってんだよ」



 唐突すぎる展開に脳が着いて行かないまま、話はどんどんと加速していく。



「あの女はなぁ、俺らにケチ付けて来たんだ。へへっ、命が知らずの女を……こうやってなぁ。ひひ……スタイルも顔も良い。最高だぜ」



 ……単純に怖い。なんだよコイツ。何故周り見ている人達は止めようとしないんだ……? こいつらは一体なんなんだ?



 一歩、もう一歩と足を下げる。恐怖のあまり、なんとかしなければいけないという考えよりも先に、自分の命が大切だと、逃げの姿勢をとっていたその時だ。下がる足に若干の違和感を感じ、ふと下を見る。

 そこには救いの手とも呼べる様な豪華な剣が落ちていた。

 それをすぐさま拾い上げ、無駄に威圧を掛けてくる男に対し、構える。



 女神様が言うようには武器を持てばステータスが強化されると言っていた。そしてそれを表すべく、用意された能力もあると。

 目の前に、唐突に四角い何かが現れる。現れた文字には、長剣・攻撃力上昇、防御力上昇、洞察力上昇。とかかれてあり、下のレアリティと書かれた場所には十の星が書かれていた。

 女神様曰く、上昇量は武器の良さに直結する。つまり、現段階で相当上がっているはずだ!!



「おぉ? やろうってんのか?」



「……あぁ」



 気が付くと、女性に集っていた男らもこちら側を見ていた。



「命知らずがぁ!!



 男の腰にかかっていた剣は抜かれ、縦に軌道を描き、俺に襲いかかる。

 この剣は恐らくあの女性のもの、だから此処であの攻撃を防いでしまえば刃こぼれが生じる。から此処は避けて刃の無い部分で攻撃だな。



「避けた!?



 って言うか俺凄くね!? 避けたぞ!! なんか強そうな男の攻撃を避けれた!!

 いや、そうじゃない。避けたら次は刃の無い至って安全な部分で……!!



「んぐあっ!!



 ……凄い吹っ飛んだ。



「え……っと」



 能力の恩恵凄いな。



 此処でどっと歓声が鳴り響く。ポカーンと何も考えることが出来なかった俺はその歓声で気を取り戻した。



「兄貴ぃ!!



 女性を取り囲んでいた男達は一斉に離れていき、そのままその男を担いで逃げ出した。



「勝ったのか?」



 ……どうやら勝ったらしい。

 またもや不透明な四角いテキストボックスのようなものが現れ、次はLvUPと表記されていた。そしてその表記の下には能力解放と書かれていた。



「能力解放……?」



 俺は二つ能力を持っていて……それだけのはずだが……。

 どうやら解放された能力は魔弾装填というものらしい。効果は武器系統・銃を装備時、魔力的攻撃が可能になる。さらに属性弾等の効果を持った魔弾も魔力消費量を増やすことにより作成可能。との事だ。



 そういえばこの剣、あの女性のだよな。



「……ありがとうございます!!



 涙ぐんだ目で近付き、深く頭を下げて感謝の意を伝えてくる。



「いや……あ、そうだ。この剣、良い使い心地だな」



 俺は引き釣った笑顔で剣をその妙にエロさを醸し出す女性に剣を返した。

 そもそも俺という人間は女性と会話したことなんて、かーちゃん位で、ほぼないのに等しいんだ。色々と動揺するなんざ当たり前だろう。それに感謝されてしまうなんてな……。



「そ、そうですか……? これ、試作品で」



「あぁ、なんか凄いぞ、これ」



 レアリティの場所に十の星が書かれていたし、聖剣エクスカリバーみたいな、バランスを崩しかねないヤバいものだと思ったんだが……。



「名乗り遅れました。私は武器鍛治職人のリュミナと言うものです!!



 再び深く頭を下げて、お辞儀をする。あの男らに一人で文句を言いに行ったり、このように礼儀正しい事から使命感の強いいい子なんだなと感じることが出来る。

 ……絶対に良い場所の生まれだ。訓練されている身のこなし。相手に感謝を忘れないその礼儀の良さ。それに……可憐で可愛い。目も合わせられねぇ!!



「あの……」



「は、はい!?



 あ、ヤバい。こんなにも長い間女性と居た時なんて無いから、つい。



「ひぃっ」



 ……驚かせてしまったみたいだ。またもや泣きそうになっている。



「あ、あの……」



「ご、ごめん」



「出来ればで良いんですが、お願いがあります!!



 またもや深く頭を下げる。これで三度目だ。三度目の訓練されたお辞儀だ。



「お礼をさせてはくれませんか?」



 ……何これ、俺、今ちょっと怒られそうな感じなのか? 朝だが、このまま家に上がってパーリーナイトなのか? いいや、慌てるな俺、喜びを悟られないようにしろ。



「君がそこま」



「ありがとうございます!!



 言葉を遮られた!? 遮って承知したことにした!?



「私、武器鍛治職人で……なので私がお礼できることと言えば武器を。っと思いまして!!



 ……。



 あぁ、分かっていたさ。人生そんな甘くないって。それよりも武器が貰えるんだ、いい事じゃないか。喜べよ、俺。もっと心の底から喜べよ。



「私は駆け出しの鍛治職人ですが、腕前は確か……だと思うんですよ!!



 確かにレアリティのところに十の星があったし……それが試作品だとか言う訳だし。そうだろうな。



「こちらに代々からやっている店があるで来てください!!



「あ、うん」



 リュミナの後を付いて歩く。髪色は綺麗な赤色で、歩く度に嫋やかに波を打つ。
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