第1話 なんて良い日だろう

文字数 823文字

ここは、風ノ国ロゼアリア。大陸の北東に位置するこの国は、高山に常に吹き抜ける風に、高い標高に建てられた堅城と、民の扱う「風ノ術」で知られている。
また、歴史的にも名高い古都や遺跡があったりと、近年では雲海船を利用してやってくる観光客も増えているようだ。
「…まあ、こんな過疎化の進んだ集落には、関係のない話かもしれないけど……」

ある晴れた日の午後、私は母から「社会」の授業を受けていた。
私の住んでいる集落「ノスラン」は、母の言う通り過疎化、というより少子化がが進んでいる。たしか集落の人口は五十人くらいだったはずだ。
この集落と、せいぜい隣町とくらいしか世界を知らない子どもたちが社会に出た時に恥をかかないように、と母はみんなを集めてお勉強会を開いているのだ。
(それは分かるんだけど…)
今日は春先の暖かい風が吹いている。外で遊んだ方が何倍も楽しいのに…
なんてぼんやり考えていたら、
「サラ、ちゃんと聞いてる?」
目をつけられてしまった。
「ちゃ、ちゃんと聞いてるよ」
「そっか。じゃあ、次はこの国を…」
(ふう、危ない危ない…)
冷や汗を拭いながら、視線を手元の本に落とす。母は普段は優しいけど、怒ると怖いのだ。
 
「…よし、それじゃあ今日はここまでね。みんな、お疲れ様!」
その言葉を合図に、授業を受けていた数人の子どもたちは、みんな一斉に家を飛び出していった。
どうやらまた風ノ術を使った遊びを思いついたらしく、外から楽しげな声が聞こえてくる。
私は大きくのびをして、隣にちょこんと座っている妹のマリアに声をかけた。
「マリア、私たちもみんなと一緒に遊びに行く?今日はきっと、風が気持ち良いよ〜」
「うん!いく!」
マリアから、可愛い元気な返事が返ってきた。
それを見て、じゃあいこっか!と小さな手と手を繋ぐ。
キッチンで料理をしていた母からは、
「おやつがあるから、3時までに帰ってきてね!」
と嬉しい返答が。
今日はなんて良い日だろう。
そう思いながら、私はマリアと一緒に家を出た。
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