第3話 木陰

文字数 1,049文字

「…あれ」
みんなとお喋りしていて、ふとマリアの姿が見えないことに気がついた。どこに行ったのだろう。ぱっと辺りを見渡すが、姿が見えない。
目を離していた隙に離れたなら、そう遠くへは行っていないはず。私はみんなにそのことを伝えて、一人でマリアを探しにいくことにした。

「おーい!マリアー?どこに行ったのー?」
少し大きな声でマリアを呼ぶが、中々見つからない。木々の間まで見てまわっているものの、これじゃ時間がかかりすぎる。
この探している間にも遠くに行ってたら…
少し不安になりながら、さっきよりも大きな声で呼びかける。
「マリアー!いたら返事して…!」
30分以上探しているものの見つからず、いよいよ本気で焦り始めた頃、
「マリア…!」
大きな茂みの裏で突っ立っているマリアを見つけた。暗くて、少し不気味な場所だ。何はともあれ、無事に見つかって良かった。ほっと胸を撫で下ろし、マリアに駆け寄った…が、
「マリア…?」
呼びかけても、返事が返ってこないのだ。暗闇の中一点を見つめたまま、ぼーっとしている。
「どうしたの…ほら、お姉ちゃんだよ?」
心配になって顔を覗き込むと、突然ぱっと夢から覚めたように
「おねえちゃん?」
とあどけない声で言った。良かった、体調が悪くてぼーっとしていた訳では無さそうだ。
「こんなとこいないで、みんなの所に戻ろう?」
「うん!」
もうはぐれないように、しっかりと手を握って二人で歩き出した。

「あんなところで、何してたの?」
花畑へ戻る途中、さっきから気になっていたことを聞いてみた。普段は怖がりで、暗いところが苦手なはずなのにどうして一人であんな場所にいたのだろう。
「うーん…おぼえてないなぁ」
「えっ、覚えてないの?」
予想外の返事に、思わず聞き返す。
(覚えてない…ということは、寝ぼけて入ったのかな…?)
やや強引な考えだったが、それ以外に特に整合性の取れた理由も思い浮かばなかったため、それで納得することにした。

「あ、二人が帰ってきたよ!」
パーラが声をあげて、こちらに大きく手を降っている。マリアと一緒に振り返して、みんなの元へ駆け寄って行った。
「マリア、どこ行ってたの?」
アモルがそう聞いたが、本人の答えはやっぱり「覚えてない」だった。
「うーん…まあ、寝ぼけてふらっと行っちゃったのかもね…」
「寝ぼけて、ってそんなことあるの?」
至極真っ当なツッコミがアンディから入ったが、やっぱりそうでないと辻褄が合わないのだ。
みんなで不思議な出来事に首を傾げつつも、三時が近づいてきたのを理由に、今日はお開きとなった。






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