第2話 風の息吹

文字数 1,138文字

扉を開けて外に出ると、やさしい風が私の身体を包んだ。ぽかぽかと暖かい日差しがさしていて、気持ち良い。私は思いっきり春の空気を吸い込んだ。
「おねえちゃん、なにしてるの?」
マリアが不思議そうにこちらを見つめている。
「ごめん、何でも無いよ。みんなはどっちに行ったか覚えてる?」
それを聞いたマリアがたぶん、あっち!と指差した方へ、二人で歩き出した。
木陰の涼しい森林の小道をしばらく歩いていると、村の外れの花畑で子どもたちが数人、遊んでいるのが見えてきた。
この花畑は、森の開けた場所にぽつんと佇んでいることから、集落の子どもたちが秘密基地のように使っている場所なのだ。
「わあーい!ふふふっ、あははっ!」
楽しそうな笑い声も聞こえてくる。
待ちきれなくなって、少し遠くの位置からみんなに向かって声をかけた。
「おーい!何してるのー?」
「あ、サラ、マリア!今ね、風ノ術で…ほら!綺麗でしょう?」
そう言って、12歳のアモルは花畑の上に小さな竜巻をつくった。
彼女がくるくると指を動かすごとに風は勢いを増していき、その風に乗った花びらが空を舞う。
透き通った花びらが光を反射していて、とても綺麗だ。
「きれーい!アモルすごい!」
隣でマリアがはしゃいで言った。
「えへへ、ありがと。二人も一緒にやらない?」
「「うん!」」
声が重なったのがおかしくて三人で笑っていると、少し遠くで竜巻作りを練習していた二人もこちらへ近づいてきた。名前はパーラとアンディで、二人は親友同士である。
「見てよ、僕、ちゃんと練習したんだから!」
そう言ってアモルと同じように花びらを浮かそうとするものの、上手くいかない様子だ。アンディもやってみたが、結果は同じだった。
全く同じポーズでうなだれる二人がおかしくて、くすくす笑いながら、私は言った。
「ちょっと私がやってみても良い?」
もちろん、とアモルが言ってくれたので、早速試してみることに。
(竜巻が花びらを巻き込む様子を想像して…)
魔術というのは、想像力が大切だ。術が成功した時の様子を鮮明に思い浮かべることで、成功率が上がる。
ふう、とため息をついて、魔力を手のひらに集中させた。
目を閉じて、肌で魔力の風を感じる。
爽やかな風が頬を撫でる。ケープが風に揺れてきる。
もっと大きく、もっと…
「わあ…!」
みんなから歓声が上がり、目を開けると、竜巻は空に届きそうな距離まで高く風を巻き上げていた。空色が、私の風に揺れている。
少し高くやりすぎたかな、と思ったけれど、花びらが風に揺れながら、空からひらひらと舞い落ちてくるこの光景を見れば、そんなこと無かったと思えた。みんなも、
「すごいすごーい!」
「綺麗だね!」
と満足そうだ。ちょっと魔力を使いすぎた気もするけれど、みんなが喜んでくれたので、良しとしよう。
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