第21話 別れと旅立ち

文字数 656文字

橋の下は深い淵になっている。しかもこの寒さの中水に浸かていたら、すぐに命を落としてしまう。ルークは迷わず橋から川に飛び込んだ。川は恐ろしく冷たく気を失いそうだ、子供はまだ意識がしっかりしていた。ルークは子供の体を抱えて、岸辺まで必死で泳いだ。子供を岸辺まで上げるとルークは地面に倒れこんだ。その場にいた他の子供たちが喚きながら大人を呼びに行った。大人が岸辺にやって来た時にはルークはもう息絶えていた。幸い溺れていた子供は意識があり難を逃れた。ルークの死に町中の人たちが泣いた。そして戦争はその一ヵ月後に終わった。
 年配の男性からルークの生涯を聞いて、龍希の目から涙が溢れた。龍希の頭に中学生のとき、オルガンの弾き方や楽譜の読み方を教えてくれたルーク牧師の優しい笑顔が思い浮かんだ。龍希は涙を拭って、晴れ渡った空を見つめて言った。
「ルーク牧師、僕はあなたがいたからピアニストになれた。もっと早く帰国すればよかった」
と龍希は嘆いた。草刈りをしていた人たちは、うつむいたまま誰も何も言わなかった。龍希は草刈りをしていた人たちにルーク牧師の墓を教えてもらいそこへ向かった。ルーク牧師の墓は柚餅子川<<ゆべしがわ>>が蛇行して流れる、見晴らしのいい丘の上に立っていた。龍希は両膝をついて手を合わせ感謝の気持ちと、ルークの冥福を祈った。手を合わせている間にモルダウの旋律が静かに龍希の頭の中に響いていた。   
               了
          
みなさん、ここまで拝読してもらって誠にありがとうございました。
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