勘違い

文字数 711文字

 意識が浮上した時には、すっかり朝になっていた。自分のベッドで迎えた朝。なのにその状況は絶望的に悪い。身体がとても痛い。少し動くのにちょっとした勇気がいる。痛む箇所に心が抉られる。

「おはよ」

 不意に顔を出した男の髪は濡れていて、裸にタオルを掛けている状態だ。

「………朝からそんな格好でいるんじゃないよ」

 思わずいつものように声を掛けてしまい、後悔したがもう遅い。あいつはすごく幸せそうに笑ってベッドに腰掛け、僕の頭を撫でる。

「ごめんな」

 そう言ってテレビを付けた。
 朝といっても、もう昼に近いじゃないか。今日休みでよかった。いや貴重な休みをこんな状態で過ごすのが嫌だ。

「謝るなら最初からするな………性犯罪者め」

 人間の尊厳とか色々とめちゃくちゃに踏みにじられた。身体の負担も凄いし。何より僕は怖い。今隣で何事もなく笑っている。いや、むしろ恋人になったような顔をして、髪を撫でているこの男が怖い。この笑顔が………。

 眺めているはずのテレビの内容も入ってこない。でもあからさまに怖がるのも悔しいが。

「ん?」

 目が笑っていない。

「………な、なんでも、ない」

 震えながら唇を噛んでこらえた僕の肩に、あいつは噛み付いた。

 少し待っててと言われて、手足を縄できつく拘束されてから一時間ほど。あの男の言ってる事とやってる事が違いすぎる。それとも元々愛してる人をこんなふうに縛り上げる趣味があるのか………ありそうだな。
 そろそろ本気で助けを呼ぼうと、縄の緩みを確かめていた時だった。ガチャ、と扉の開く音がした。

「ただいま。プレゼントだよ」

 入ってきた男が下げているのはビニール袋。ガサリと音をさせたそれには、赤黒いナニカで満たされていた。
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