開演 

文字数 1,605文字

「そう、俺は意味が欲しかった」
その瞳が、星のように瞬いた。
「俺だけの、俺らしい生きる意味が」

***

陸都に連れられ辿り着いたのは見知らぬ洋館。重厚な扉を押し開けると花の香りが出迎えた。それは軽やかで涼やかな、凛とした甘い芳香。広いエントランスホールの中央で華やぐ、大輪の白い百合の生花(いけばな)。あまりの瑞々しさと透明感に違和感さえ覚えるほどだった。ふと頭上から日が差し花弁を照らす。見上げた先にはドーム型の屋根、その中央で星型の天窓が光を呼び込んでいた。

「蓮、こっち」
先を行く陸都の足音に迷いはなく、目の前の階段を登りながら目的地だけを見据えている。
「ねえ陸都。何でそっちだって分かるの?」
彼は踊り場で足を止め、こちらにゆっくり振り向いた。いつもの柔らかい微笑みと共に。
「星が、導いているから」
そう言って指し示す足元には、夜空の色を模したカーペットで瞬く金色(こんじき)の星々。それはエントランスドアから流れ始め、規則的な旋律で彼の行先へと流れている。陸都のそばにある綺羅星に視線が移ったところで彼は再び歩みを進めた。俺も急いで階段を駆け上る。すぐに追いついて、光で満たされた白い廊下をひたすら進んだ。

気づくと目の前にはガラスドア。逆光で先は見えず、何の音も漏れ出てこない。陸都はドアノブに伸ばした手を止め振り返る。
「怖い?」
「どうして? 一緒にいるのに」
その手が伸びて抱き寄せられ、交わす口づけ。しばらくの後、そっと離れる唇。陸都はそのままこちらの肩口に顔を埋めた。
「お願い。もう一度、名前を呼んで」
「陸都。大丈夫」
「うん、ありがとう。全部終わったら、また呼んでね」

静かにドアを押し開くと、そこはまるで教会だった。光を浴びたステンドグラスが床一面を彩り、無機質な大理石がカラフルなキャンバスのよう。十字架も祭壇も見当たらないが、不思議と神々しさを内包する空間だった。
身廊の最奥へと近づくにつれ集まる視線。右手には男女のカップル、左手に幼い双子、そして中央には謎の紳士。彼は濡羽色の仮面で目元を覆っており、身に纏う上質なスーツもそれと同色。全体的に黒色(こくしょく)が勢力を誇示する中、艶やかなブロンドヘアは星のような輝きを秘めて。
薔薇窓の下、シンプルなアームチェアに腰掛け長い脚を組み、泰然とこちらの到着を待っているようだった。軽く口角を上げ歓迎を示しているのだろうけれど、全く隙のない雰囲気が妖しい。

こちらが足を止めると同時に、彼は悠然と立ち上がった。
「揃いましたね」

落ち着き払った、威厳のある声だった。
「候補者の皆様、結びの間へようこそおいでくださいました。我が名はアストラ。神の器の代弁者です。以後、お見知り置きを」
恭しく(こうべ)を垂れるアストラ。
再び背筋を正して微笑んだ。
「前置きはこれくらいにして。本日このように御呼び立てしたのは、ご存知の通り、神の器がそう願うからです。あなた方にも新たな風を呼ぶ声が聞こえるでしょう」
解き放たれた言葉が、静寂へと溶け込んでゆく。
「さあ。私に魅せてください。最も相応しいのはどなたなのかを。器が選ぶのは一組のみです」
彼はこちらに手を差し伸べ言った。

「ご準備はよろしいですか」








***本編は以上となります***



ここまでお読みくださりありがとうございます。


本編フレーズちら読み追記☆

【左海アルヴァー】
「それと、忘れないでください。そうやってもどかしく思うのは、必死に頑張っている証拠です。だから大丈夫です」



故に私にとって「らしさ」とは誰かに認められるための条件と同意で、「私らしさ」とは別儀だ。私らしさは生まれながらに持っているこの身体すべて。ただそれだけだ。

【ルイ・フリージア】
「大人ってつまんないね。素直になれず諦めてばかり。幸せはすぐそばにあるのに。ねえ、ルカ」

「抱きしめたければ抱きしめればいい。何のための両手なの。好きなら好きって言えばいい。何のための声なの。素直で自由な僕らこそ、神の器に相応しい」






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