プロローグ
文字数 819文字
「汝等こゝに入るもの一切の望みを棄てよ」
『神曲』地獄編 ダンテ・アリギエリ( 山川丙三郎 訳 )
プロローグ
その日は突然訪れた。
玄関から戻った彼女はこう言った。
「アルヴァー。届いたわ」
その手には差出人不明の乳白色の封書。堅苦しい筆致と重々しい深紅の封蝋に、祝い状の雰囲気などなく。いつかの予言通り、それは確かに届けられた。
けれど不安などない。心配も不要。私たちはもう、決めているから。微笑みを添えて彼女を迎える。
「行きましょう。一緒に」
答えの代わりに、美しい笑顔がそこにあった。
***
その日をずっと、待っていた。
朝一番の郵便で届けられた、差出人不明の封書。開封せずとも内容が分かったから、駆け足で寝室へ戻る。執事の呼び止めも聞かず、真っ直ぐに戻る。広い寝室、僕らのキングサイズのベッドの上。君はまだ夢の中。
「ルカ。起きて。ついに来たよ」
顔を背け、夢の中にとどまろうとする
「わかってた。僕らは必ず呼ばれるって。幸せが、僕らを選んだんだ」
***
何の前触れもなくやってきた
そのとき
。俺たちの間にはいつもの日常が流れていた。玄関ポストで封書を拾い、他の郵便物と併せて陸都に渡す。
「来たよ」
それを手に取り開封し、ゆっくりと目を走らせる陸都。
「明日だって。よかった、今日の記念日お祝いしてから行けるね」
手紙を置いて、コーヒーを味わう君。そうやって、俺たちの間にはいつもの日常が流れてゆく。定められた、そのときまで。
***
『親愛なるあなた方へ
下記お目通しのうえ、明日の然るべき時間に然るべき場所へご参集ください。
記
我、神の器。我に示せ、汝等の全て。
汝等、選ばれし者。もがけ、足掻け、人らしく。
汝等、試されし時。望めよ、夢見よ、求めよ全て。
汝等、選ばれし時。行け、時間の最果て。
以上 』
「さあ、始めましょう。集いなさい、人の子よ。星が手招くその先へ」