第1話

文字数 1,625文字

ネコ神社

あれはネズミ年の年だから
四年前のことになるだろうか
お正月に近所の神社にお参りして
家族揃って手を合わせてふと見ると
どこからともなくネコが現れ
私たちの方に可愛く鳴きながら
歩み寄って来るではないか
まだ あどけなさが残るネコだった
ネズミの代わりにネコが出てきて
新年の挨拶をしてくれるとは

今年の正月 その同じ神社に詣でて
家族で手を合わせてから
社務所の方へ旧いお札などを納めに歩きながら
あの時 ネコが出迎えてくれたことを
妻が話題にするやいなや 私の目の前にあった
ベンチにどこからともなく何かが現れた
それは 私を怯えさせるほど何か大きな獣で
それが ネコであると認識するまでに
しばらく時間を要したほどだった
 でかっ 思わず私はそう叫んだ
それは驚くほど威風堂々としたネコさまで
私にほんの少し頭を撫でさせると 
まぁ こんなもんでいいだろうというように
おもむろにゆっくりとベンチを降りて歩いてゆかれた
思わず凄いネコに出会えたことに少し興奮しながら
おみくじを買おうとしていろいろな種類の
おみくじが箱に入れられて並べてあるところで
最も一般的なおみくじを引いてみた
中吉ということで書いてあることもいい内容なので
ほっとひと安心していると娘が隣にある
「恋 みくじ」の箱の方を指さしている
何かと思って見てみると何と恋みくじの箱は
真っ黒な艶やかな毛皮で覆われていたのだ
それはあまりにも異様な光景でもしかしたら
誰かが黒いショールでも箱の中に入れて
帰ってしまったのかと思ったのだが よく見ると
そこには真っ黒な猫が丸くなって寝そべっていた
そして 二つの金色の目を輝かせながら
不敵にこちらを眺めているのだ これには
本当に驚いてしまった 周りにいる参拝客は誰も
この世にも奇妙な光景に気がつかないのだろうか
そっと 触ってみたが やはり 寝そべったままだ
目をつむったままなのでただの黒い毛皮と化している
妻が触ろうとしたらどういうわけか頭をもたげ
あの黄金の目で睨むように一瞥しているのだ
そう言えば何かのCМでネコが金魚鉢の中に
すっぽりと体を丸くして入り込み 実はネコは
液体で出来ているのですというのがあったな
この状態で「恋みくじ」を引く勇気のある人は
果たしているだろうか まさに命がけの恋みくじだ
このおネコさまの体の下に手を入れてまで引く
恋みくじは必ずやその恋を成就させてくれるだろう

この神社には何匹かのネコが住みついているようだ
そのためネコ神社などと呼ばれているようだ
ネコで有名になっている神社があってもいい
もしかしたら 最初の大きなネコは数年前に
私たちの前に現れたまだあどけなかった
ネコかも知れないなどと家族で話した

今年は辰年ということだが
正月元旦からあまりにも無慈悲な地震が
能登半島を襲い日本中が悪夢に包まれているようだ

どうか 能登の被災者の方が一日も早く
平穏な暮らしを取り戻せるように祈りたい


ファンレターさまの紹介

 お猫様の長閑な社

新春のお社に柔らかな春風が吹くような詩に心が和みました。神社に猫がのんびりと寛ぎ、参拝者も愛らしい猫を撫で、自然と笑顔になる…幸せな光景が目に浮かぶようです。何気ない初春のひとときに、不思議な神の領域に入り込んだようですね。そこはまるでファンタジーの世界です。いつか見たあどけなさが残る、ネズミの代わりにご挨拶をしてくれた猫が、立派な風格のある猫に成長し、再びお出ましになられたのでしょうか。「よし、少しだけ撫でてもいいぞ」と言い出しそうですね。そして恋みくじの箱の中には、恋占いの巫女と化した立派な黒猫が…「勝手に選んではならぬぞ」お猫様がお選びになられた恋みくじは果たして、吉と出るか凶と出るか…きっと全部が大吉でしょうね。思わず楽しい想像にふけってしまいました。こんなにも愉快なお猫様達がお住まいになられる長閑なお社では、人々も幸せになり一足早い春に包まれていることでしょう。どうかこの幸いが、能登の皆様にも早く届きますようにと心から願っています。

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