第2輪 薔薇の館

文字数 2,074文字

翌朝。

エドガーが目を覚ますと、窓から強烈な朝日が差し込んでいた。


慌てて布団を被り、声を荒げた。

直射日光が!

焼ける!

おはよう、兄さん。

兄さんはさっきまで顔面に朝日を思いっきり浴びていたよ。

直射日光を浴びても灰にはならないね。

お天道様に顔向け出来ない!

堂々と表を歩けない!

死ぬ!

一体、兄さんは何をしたっていうんだい。

そんなに恥を偲んで生きているの?

ぼくは!

カッコ悪い生き方ばかりしてきた!

生きていられない!

恥を偲んでも偲びきれない!

そこまで自分を顧みる精神があるなら、もっと向上心を持って生きれば?
嫌だ!

外に出たくない!

ぼくは!

はずかしい!

開き直りの精神が大きく欠落しているようだ。

兄さんはカッコ悪いのが嫌いなんだね?

恥をかかされるのが何よりも。

捨て置けなんて言い放つ度胸もなく。

ぼくはプライドに押し潰されて、悶えながら引き篭もるしかないんだ!

恥ずかしい!

イキりたいんだ?
何を言うんだ!

そんな事、出来る訳がないだろう!

イキりなんて汚い言葉を使うな!

下賤の民め!

典型的なコーザル回転の低さだ。

プライドを間違った位置に置いているね。

流石イナンナというべきか。

イナンナとは!
人間のカス。
カスだと!

どこの!

なんの!

鼻か!

耳か!

精神領域の末端。

尾とも言える部分だが。

向上心のある人は、この部分をトカゲの尻尾切りのように捨て去って人間性を高めていくよ。

イナンナ成分は、捨て置かれる尻尾そのものなんだ。

何度となく言われてきた!

擦れていると!

ぼくが擦れている訳がないだろう!

擦れてはいないけど、なんというかな。

理解されないよね。

生焼けで中途半端だし。

擦れていない?

では、ぼくを罵倒してきた奴らが擦れていたんだな!

そういう事もありましょう。

しかし個々の精神球の回転の向きと受容の抵抗度によって受ける印象というものは変わります故。

エドガー兄さんを擦れていると言ってきた人は、過去に同じような体験から擦れていると言われて、擦れていると言う状況を勘違いした、質の悪い伝言ゲームの被害者になっているのかもしれないし。

何を言っているのか!

しかしぼくは擦れてなどいない!

熱い筈だ!

そう思って生きている!

それは分かるよ。

恥を偲んで、自覚しているから。

熱いは熱い。

しかし本当に、理解されない。

融解現象も起きやすいし。

融解だと!

ぼくはいつそんな!

解けない!

溶けない!

おやおや。

自分が傷付いていることにも気付いていないんだね。

鈍感くんだな。

お前!

どこが優しいお姉ちゃんだ!

傷付いた!

傷付いた!

傷付いた!

はっきりした物言いは、やはり人を傷付けるなあ。

物語を進める為に素を出したけど、こうすると優しいお姉ちゃんにはなりきれないね。

ぼくに気を遣っているというのか!

これで!

こんなに冷たいのに!

いや、今はあんまり気を遣っていないよ。

エドガー兄さんの為に、もっと優しい言葉を選ぶけどね。

チャットノベルとして世に出される事になったので、ツイスター空間への侵入を試みた。

傷付いて当然かも。

ごめんね。

ツイスター?

棍棒!

嫌いだ!

ウンディーネは嫌いだ!

水のエレメンタルを嫌っている、とも取れる発言だ。

エドガー兄さんは、優し〜い感触の自分のよく知った環境でしか生きたくないんだね。

どうしてそうなる!

どうしてそうなる!

分からない!

なあに!

なあに!

向上心の欠如により、智が欲しくても上手く自分のものにする事も適わず。

まずは神ロギ神ロミだが。

今の状態では絶対に無理だ。

そもそもイナンナだし。

笑う!

宗教臭い!

死ね!

手の施しようがないな。

あまり神霊領域の認識をこの人に持ち出すのは良くない。

何もかもが誤りだ。

誤り?

何故!

ぼくは間違っていない!

そーだねー。

間違ってないねー。

エドガー兄さんは頑張ってるもんねー。

そうだよ!

どうしてそんな虐めるんだよ。

ぼくはただ、一生懸命生きているだけなのに。

虐めちゃったね。

ごめんね。

そんな風に、兄さんを傷付けるつもりはなかったの。

うう。

どうせぼくなんか……。

悲しい。

悲しい。

悲しい。

本当にね。

一緒に泣こうか。

うっ!うっ!

うわーん!

バカバカ!

イシュタルのバカ!

メリーベルの方が可愛かった!

メリーベル!

メリーベルか。

メリーベルはもういない。

(兄さんに愛想尽かして)消えてしまった。

消えた!

夜露と共に!

メリーベル!

うわーん!

私じゃ、兄さんの心を癒しきれないなあ。

違うキャラにならないと。

キャラ?

イシュタルのその性格はキャラクターなのかよ!

形質という。

形質からなる核質の展開により、人格なるものは作られていくのだが。

もっとふんわりした人の方が兄さんには合ってるかもね。

ふんわり?

辞めてよ!

優しい人なんて懲り懲りだから!

ぼくには合わない!

ふうむ。

やはり人を変えるべきだな。

ちょっとでてくるね。

待てよ!

逃げる気か!

ぼくの愛は!

ほら。

昨日の残りの赤い薔薇をどうぞ。

これを食べてね。

どうしてそんなに優しいの!

どうして!

エドガーが赤い薔薇を食べている間に、イシュタルはそっと部屋を出た。


広間に向かい、チョークで魔法陣を描く。

またやるしかないか。

優しい、セレスティアルな妹を呼ぼう。

手を組み、呪文を唱え始める。
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登場人物紹介

ロク

ヒチ

エドガー

イシュタル

マリーベル

アーネトルネ

キウメロ

パティコ

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