◎羊水◎

文字数 725文字

不透明な視界の中で、同じ時間、同じ温度に抱かれながら毎日を泳いでいる。

ある日、片耳が外気に触れた。直後に顔が水面から上がってしまう。初めて酸素を飲み込んで、
鼻が
口が
皮膚が
感じたことのない温度に飲まれる
二酸化炭素の出し方が分からず、情けないほど苦しい。本当の世界とはこんなものなのか。私より高いところまで飛んでいる。あんなに坐った顔をしている。
もっと高く飛びたい
あんな風に大きく高く高く
両手を広げて大きく
空気を掻き回して音を立てて
ほとばしる滝のように堂々と
生々しく光りたい
もどかしく重い体をバタつかせる。私より下で泳いでいる魚たちはあんなに坐った目をしている。
ふとしたとき、いつも見上げていた世界。
水中から見る水面はいつだってうっとりする色や形をしていた。
でも、本当の色はこんなに鮮やかで、こんなに熱くて
刺さるように速くて
身体の全ての膜を震わすほどの衝撃
私の体内時計の針は高速で回り始め
心臓は危なっかしく踊った
緻密なガラス細工は飛ぶように割れていく、私はこんなに小さいのだ
「きっと、水はもうなくなってしまうよ。村に干ばつが起きたんだ。」
塗料の剥がれた魔法のコンパクトにしがみついて震えている。

「お誕生日おめでとう」
幕を閉じた視界に響く。目を開けて見えたものに、わたしは全てを解決させた気持ちになった。このリボンや言葉や笑顔から魔法のパウダーが飛び散って銀色に美しく反射してる。愛という名の水がわたしの空間を満たしていく

そして等身大の私として
今日、わたしは誕生した。
もうこれで十分だ。今度はわたしが、皆の第二の誕生を促進させる第二の子宮となろう。その乾いた一日にあたたかい水を注いでやろう。
わたしは老けたのかもしれない。
でも
今の方がよっぽど世界が美しい。
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