第1話

文字数 1,166文字

 お彼岸の中日である2023年3月21日(火)[春分の日]の午後4時過ぎ、私は山形県庄内町の行きつけのお好み焼き屋にいた。
 店内にある大きな液晶テレビは、午前中のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の準決勝対メキシコ戦で、村上宗隆選手の渾身の逆転サヨナラ打の余韻を報道していた。
 店には88歳の常連の老婆や70歳半ばの男性が、三々五々、グラスを片手にひとり解説者になっていた。
 番組はテレビュー山形の「Nスタやまがた」で、山形地方色の濃い内容が多い。その日もWBCの準決勝で、侍 J の中野拓夢選手(阪神タイガース所属)が山形県天童市出身で、二塁に代走で出て4点目のホームを踏んだ大活躍をした。山形の誇りとして特集されていた。天童市内の少年野球のチームが紹介され、皆、「僕も中野拓夢選手みたいになりたいです。」とインタビューに答えていた。(ん~~~、これはかなり地元色の濃い内容だなぁ)と思った。
 チャンネルはNHKに替わり、選抜高校野球第4日目第二試合 慶応(神奈川)対 仙台育英(宮城)の放送が映った。山形県庄内に約14年いると、東北に馴染みが出る。山形でなくても何となく宮城の仙台育英を応援したくなる。
 「今年の選抜は、宮城から東北と仙台育英の2校が出て、山形はゼロですよね。」
と常連の70歳半ばの小父(おじ)さんに尋ねた。地元焼酎「(さわやか)」の炭酸割にレモン片を入れてがぶがぶと飲みながらその小父(おじ)さんは、
 「んだ。山形は夏でないと甲子園には出らんねぇ。今回は東北地方大会で1位と2位が宮城だったからの~。山形が選抜されるには野球じゃ無理だのぉ~。ゴミ拾いや花壇を作って地域への貢献が認められ地域枠で選抜されるしかねえのぉ。はははははっ!」
と豪快に笑った。地元山形でなければ分からない、辛辣で的確かつ愛情のこもった指摘だった。
 そこに70歳後半の白髪のお爺さんが来店した。
 「ああ、そうか。今日は彼岸の中日で、集落の長の交代だの。」
 「ところでお前さんは幾つになったのかの~?」
 「…。」「…。」「…。」
 ここでテレビはNHKの相撲放送に切り替わった。
 今度は身長 171.0 cm、体重 117.0 kg の小兵 翠富士(みどりふじ) の大活躍が話題の中心になった。
 「翠富士(みどりふじ)は小さいのに、頑張るのぉ。」
 「んだんだ。」

 常に孤独を感じている中高年の人たちは、孤独を感じていない同世代の人たちと比べて、後に認知症あるいはアルツハイマー病を発症する危険が約2倍高いことが、2021年4月、米ボストン大学医学部のWendy Qiu 教授らの研究で明らかになった。
 別に酒が飲めなくてもいい。お好み焼きを食べに来ればいい。(↓写真)

 ここは地域にとって貴重な「爺婆(じじばば)のたまり場」なのだ。
 しかも常連の医者もいる(笑)。

 んだんだ。
(2023年3月)
 
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み