そして作家はいなくなる

文字数 1,475文字

 絶海の孤島にある謎めいた洋館。そこに私たち推理作家協会のメンバー5人は集められた。
 なんでも「あるお方」の要望で、同じ場所で起こる事件のアンソロジーを書いてほしいとのことだ。
 「あるお方の要望」......ステージはこの洋館。そして、この中のメンバーの誰かが殺されるという内容。本当に趣味が悪い。私たち作家同士を仲たがいさせるのが目的なのだろうか。
 私たちは表面上同じところに所属している同志なのであるが、やれあいつの売り上げがよかっただの、あの女は枕営業でのし上がっただの、あいつは自分の作品をパクっただの、本心はわからないところがある。それが我々推理作家だ。悪魔に魂を売って生計を立てている人間たちだ。
 ガリガリでいかにも社会不適合者のようなバイトくんの案内で、私たちは各人、洋館をめぐり、事件の起こりそうな場所やトリックに使えそうなものを探す。
 締め切りはないが、1万字書きあがった人が出たらそこで終了。そいつに賞金1000万円。どの作家も今は生活に苦しんでいる。印税が入ってこないから生活できないのにも関わらず、SNS上では「いい暮らしをしているように見せかけている」のである。くだらない見栄というやつだろうか。
 さて問題。字数的には問題はないが、どういうトリックを使えばよいのだろう。
 バイトくんの給仕で、全員一緒にディナーをとる。そこでも動機やトリックを見出そうとみんな躍起になっていて、食事や雑談どころではない。
 この中の誰かを殺す――原稿用紙の中で。そして、そのトリック……思いつかない。この後は執筆だ。食事が終わり、全員部屋にこもって1時間過ぎた頃だった。

『小説が完成した方が出ました。ここでゲーム終了です』
「え……?」

 こんな短い時間で一体誰が書き上げたというのだ。驚いていたが、次の館内放送で私たちはもっと焦った。

『これからあなたたちに、その小説の演者になっていただきます。ご愁傷様でございます』

 待て、どういうことだ。「その小説の演者」ってことは、これから誰かが殺されるのか?
 不安に思っていたそのとき――ドンッ! と大きな音と振動が館を襲った。

「何事だ!?」
「わかりません!」
「外が燃えてる!?」

 作家協会のメンバーたちは、部屋から出てきて状況確認をしようと試みる。

「館内放送では『小説の演者』って言ってたよな? いや、その前に、館が砲撃でも受けているのか!?」
「どういう小説だったんだよ! 一体、何が起きてるんだよ!!」

 推理作家たちが閉じ込められている館が、火の海になっている。あいつらは全員死ぬだろう。しかし、バイトで来ていた僕が一番に小説を書き上げてしまうなんてね。まったく、今の作家ってネット小説家より遅筆なんだなぁ。
 ちなみに、僕が書いていたのは「SF小説」だ。別に推理小説である必要なんてなかった。そんなことすら気づいていなかったって、間抜けだな。
 条件は「この洋館を舞台に、作家の誰かが死ぬこと」――誰かって、ひとりじゃなくてもいいんでしょ? だから、「買い出しで館を離れていた僕以外が全員死ぬ」。ちなみにSFってジャンルなんだけど、人工衛星が火の玉みたいにいくつかこの洋館に落ちてくるっていう話にした。

 どういう原理でそれを実現化しているのかはわからないけど、要するにこういうことなんだよね。


 ちゅどーん。


 さて、バイトも終わってしまったことだし、1000万はどうやって使おう? そうだ、どこかに匿名で寄付でもするかなぁ。
 自分の見栄と利益ばっかり目的にしていたやつらなんて、死んで当然だったんだろうな。
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