山手線1両目
文字数 1,554文字
ここで山手線1両目の車内にいるイカれたやつらを紹介するぜぇぇぇぇっ!!
ドアに寄りかかる女優・小手川由里子!
手ぶらで車窓を眺めている売れっ子ボーカリスト・ソーシ!
つり革を両手で持っているお笑い芸人・茶っプリン!
座って本を読んでいる舞台女優・諸刃かいり!
同じく、座ってうたた寝しているV系バンドマン・KOKUTO!
その斜め前に立っている女性アイドルグループ、ドンドン坂109のメンバー・猿田彦さとり!
優先席に座っているのは、人気動画配信者・チカポン!
車両のつなぎ目の近くにいるのが、元オリンピアンのフィギュアスケーター・川上涼子!
その後ろで音楽を聞いている、プロレスラー・マッチョゴリ・魯迅!
腕を組んで揺れながら踏ん張っているのが、ラッパーのTANUKICHI!
スマホをいじっている将棋棋士・佐和山永観!
この時代に新聞を読んでいるコメンテーター・照田由輝!
スマホの画面を鏡代わりに見ているのが人気女子アナ・井頭橙子!
電車内なのに握力を鍛えている野球選手・島中太次郎!
長い金髪を指先で弄ぶ、モデル・カナカ!
そして、そんなクレイジーなやつらと偶然居合わせた俺、モブ中のモブ、一般人の中学生・けんじと小学生の弟、ゆうじ!
どうだ〜、最高に狂った空間だろぉぉぉ〜!?
ひゅーっ!!!
…………。
ふう、まず自分を落ち着かせようか。
なんでこんなに車内に有名人が乗り合わせてるんだ。っていうか、やつらタクシー使わないのか? 金持ってんだろうし、何よりもファンに会ったら危ないだろう。それなのにこんな公共機関に堂々と顔も隠さず……。
しっかし誰も話さないな。まぁそれも当然か。有名人同士、「あ、この人テレビとかネットで見たことある!」って思っても、仕事で一緒になったりしなかったら赤の他人で友達でもなんでもないからな。
正直に言う。めっちゃくちゃ気まずい。まだ弟は気づいていないみたいだけど、有名人たちの視線が俺たちに向いている……気がする。多分やつら、俺たちがこの中で誰の名前を最初に挙げるか注目してるんだ。有名人ってどうでもいい見栄ばっか張ってるもんな。『この山手線1両目に乗り合わせている誰が一番知名度があるか』とか勝手に心のなかで競ってそう。
俺はほぼ全員ーーもしかしたらまだ俺が知らない有名人が紛れている可能性もあるけどーーに気づいたと思うけど、弟のゆうじが誰に最初に気づくか、注目が集まっている……気がしてならない。
ともかく何度も言うが、気まずい。ゆうじが誰の名前を挙げたとしても、挙げられなかった他の有名人の視線が突き刺さる可能性は100%。だが、だからって俺から「はは! ここの車両は有名人がたくさん乗ってるなぁ〜! まるで『有名人専用列車だ☆』」なんて能天気なことも言いたくはない。これは「逆に一般人としての俺のプライド」だ。公共交通機関を使っているならば、どんな有名人と言えど俺たちと同じただの市民である。面倒事になることは避けていただきたい所存。
でももう俺はその面倒事に巻き込まれちゃってるんだよなぁ〜……。口には出さないけど、感覚的に。
「ねぇねぇ、兄ちゃん!」
「!」
キタ。ゆうじの声に、俺以外の車両に乗り合わせたやつらがピクリと耳を澄ませる。
誰だ? 誰の名前を口にするんだ?
「……やっぱ電車かっけー! 運転手さんすげぇな! 一番前だと電車運転してるみたい!」
「は? ……はは、そうか、そうだなぁ」
有名人たちが一斉に俺たちから視線をそらしたのがわかった。
そうだよな、小学生男子の興味は、有名人なんかより電車だよなぁ……。女子高生だったら少しは変わったんだろうけど。
「電車速ぇぇ!!!」
弟は完全に電車の前方の窓と運転手さんに夢中である。俺は少しホッとした。
ドアに寄りかかる女優・小手川由里子!
手ぶらで車窓を眺めている売れっ子ボーカリスト・ソーシ!
つり革を両手で持っているお笑い芸人・茶っプリン!
座って本を読んでいる舞台女優・諸刃かいり!
同じく、座ってうたた寝しているV系バンドマン・KOKUTO!
その斜め前に立っている女性アイドルグループ、ドンドン坂109のメンバー・猿田彦さとり!
優先席に座っているのは、人気動画配信者・チカポン!
車両のつなぎ目の近くにいるのが、元オリンピアンのフィギュアスケーター・川上涼子!
その後ろで音楽を聞いている、プロレスラー・マッチョゴリ・魯迅!
腕を組んで揺れながら踏ん張っているのが、ラッパーのTANUKICHI!
スマホをいじっている将棋棋士・佐和山永観!
この時代に新聞を読んでいるコメンテーター・照田由輝!
スマホの画面を鏡代わりに見ているのが人気女子アナ・井頭橙子!
電車内なのに握力を鍛えている野球選手・島中太次郎!
長い金髪を指先で弄ぶ、モデル・カナカ!
そして、そんなクレイジーなやつらと偶然居合わせた俺、モブ中のモブ、一般人の中学生・けんじと小学生の弟、ゆうじ!
どうだ〜、最高に狂った空間だろぉぉぉ〜!?
ひゅーっ!!!
…………。
ふう、まず自分を落ち着かせようか。
なんでこんなに車内に有名人が乗り合わせてるんだ。っていうか、やつらタクシー使わないのか? 金持ってんだろうし、何よりもファンに会ったら危ないだろう。それなのにこんな公共機関に堂々と顔も隠さず……。
しっかし誰も話さないな。まぁそれも当然か。有名人同士、「あ、この人テレビとかネットで見たことある!」って思っても、仕事で一緒になったりしなかったら赤の他人で友達でもなんでもないからな。
正直に言う。めっちゃくちゃ気まずい。まだ弟は気づいていないみたいだけど、有名人たちの視線が俺たちに向いている……気がする。多分やつら、俺たちがこの中で誰の名前を最初に挙げるか注目してるんだ。有名人ってどうでもいい見栄ばっか張ってるもんな。『この山手線1両目に乗り合わせている誰が一番知名度があるか』とか勝手に心のなかで競ってそう。
俺はほぼ全員ーーもしかしたらまだ俺が知らない有名人が紛れている可能性もあるけどーーに気づいたと思うけど、弟のゆうじが誰に最初に気づくか、注目が集まっている……気がしてならない。
ともかく何度も言うが、気まずい。ゆうじが誰の名前を挙げたとしても、挙げられなかった他の有名人の視線が突き刺さる可能性は100%。だが、だからって俺から「はは! ここの車両は有名人がたくさん乗ってるなぁ〜! まるで『有名人専用列車だ☆』」なんて能天気なことも言いたくはない。これは「逆に一般人としての俺のプライド」だ。公共交通機関を使っているならば、どんな有名人と言えど俺たちと同じただの市民である。面倒事になることは避けていただきたい所存。
でももう俺はその面倒事に巻き込まれちゃってるんだよなぁ〜……。口には出さないけど、感覚的に。
「ねぇねぇ、兄ちゃん!」
「!」
キタ。ゆうじの声に、俺以外の車両に乗り合わせたやつらがピクリと耳を澄ませる。
誰だ? 誰の名前を口にするんだ?
「……やっぱ電車かっけー! 運転手さんすげぇな! 一番前だと電車運転してるみたい!」
「は? ……はは、そうか、そうだなぁ」
有名人たちが一斉に俺たちから視線をそらしたのがわかった。
そうだよな、小学生男子の興味は、有名人なんかより電車だよなぁ……。女子高生だったら少しは変わったんだろうけど。
「電車速ぇぇ!!!」
弟は完全に電車の前方の窓と運転手さんに夢中である。俺は少しホッとした。