3:ジジババへ真実を告げるのだ。

文字数 2,791文字

――ということで、私はすでに一度死に、そして生まれ変わったのです。
むむむ……にわかには信じがたい話じゃが……
桃太郎はまだ一歳だというのに、突然喋り始めたのですもの。信じないわけにはいきませんよ。
正直、こうやって話せるようになるまで苦労しました。
しかしのう……こんな下膨れの言うことをおいそれと信じられるわけが……
いやいや、お爺ちゃんも結構下膨れてるから。
いやはや、確かに儂のシモは膨れておるのう! はっはっは!
何に興奮してるんだよ!
婆さんじゃ。
あらイヤですよぉお爺さん。恥ずかしいじゃないですか!
本当に恥ずかしいからやめてください!
……まぁ、親である儂らが桃太郎の言葉を信じぬわけにはいかんな。
そうですねぇ。この子がウソをつくとは思えません。
お爺ちゃん、お婆ちゃん! ありがとうございます!
なぁに、可愛い息子の言うことじゃ。問題ないわい。
でもシモネタは自重してください。
断る!
それよりも、儂のやった刀が全く役に立たなかったとはのう。そのせいで偉い苦労をかけてしもうた。すまんなぁ……。
いえ、お爺さんの刀は間違いなく一級品でした。ただ、相手が悪かっただけです。鬼どもの皮膚はまるで鋼鉄。人を斬るための道具では駄目だったのです。
そう、かの鬼どもはまさしく化物。奴らが本気でこの地を侵そうとすれば、人間などたちまち滅ぼされてしまいましょう。
それでも、あなたはまた鬼と戦うつもりなのかい?

他の人に任せることはできないのかねぇ。

それは……できません。
どうしてなんだい?

あんたがそんな苦労を背負い込む必要なんてどこにもないだろう?

そうじゃ! 儂らとこのまま暮らすことはできんのか!
奴らは、私にとってかけがえのない三匹の友を喰らいました。

ゲラゲラと、今でも耳に残る笑いを響かせながら、楽しそうに、私の友を喰らったのです。

そして……お爺ちゃんと、お婆ちゃんも料理してやると、そう言ったのです。
私は誓ったのです。必ず奴らを斬り殺すと。

奴らだけは決して許さぬと、そう誓ったのです。

…………
私は、もう少し成長すれば大人にだって勝てるようになります。

さらに成長すれば人の中で私に勝てるものはなくなります。

桃から生まれた私は、人にあらざる力を持っているのです。

その私がかなわなかった化物共に、他の人間が太刀打ちできるはずがありましょうか。

あの地獄の鬼は、私が止めねばならぬのです!

……勝ち目はあるのかの?
わかりません。

ですが、勝たねばならないのです。

…………そうか、わかったよ。
お爺さん……
ならば、儂らは桃太郎が確実に鬼を倒せるように協力してやらんといかんわな。
お爺ちゃん……
……ええ、ええ! 可愛い息子のためなら、どんなことだってやってみせますとも!
お婆ちゃん……! ありがとう……!
じゃが、実際どうするつもりじゃ?

何か策はあるのかの?

それが、恥ずかしながら何も思いついておりません。
あら、本当に恥ずかしい子だわ!
えっ
なんて恥ずかしいやつじゃ!
いや、だって鬼たちはめちゃくちゃ強かったですし、生半可な策ではとても……
ふむ、こうなれば作戦会議が必要じゃな……
はい、お爺さん。準備はできています!
こ、これは一体……!?
まぁ、詳しい話はあとじゃ。

時に桃太郎、お主は鬼に負けた一番の原因は何だと考えておる?

原因ですか。それは鬼のことを調べていなかった私の知識不足ではないかと――
喝ッーーー!!!!
痛い! なんで叩くんですか! こっちは頭頂部の柔らかい赤子ですよ!?
それは、あなたの言ったことが間違いだったからよ。
えっ!?
(思ったより理由が普通で反応に困るな……)
そ、それで敗因は一体なんだったんでしょうか?
さっき、鬼どもの皮膚が鋼鉄のようだと言っていたな。

だが……お主は鬼どもの一撃を受けて倒れてしまったのではないか?

それは……その通りです。

奴らの丸太のような腕はそれだけで凶器。獲物の金棒を使われるまでもなく、私の鎧は紙くずのようにひしゃげてしまいました。

それだと、鎧はただ動きを制限するだけの重りになってしまうわねぇ。
た、確かに!?
ならば桃太郎。鎧を捨てるんじゃ。

恐らく、どれほど鎧を強化しても鬼の膂力には耐えられぬじゃろう。

じゃが、どれだけ強力な攻撃も当たらねば意味をなさん。鎧砕く一撃も、頬を撫でるそよ風と同じことじゃ。

全ての攻撃を避ければ、負けることはなくなるじゃろう!
な、なるほど……!
しばらくは体力づくりをしないとねぇ。ともすれば命を落とす極限で動き続けるのは、かなりの体力が必要だからねぇ。
体力づくりの目録は婆さんが作ってくれるじゃろう。後で教えてもらうとよい。

それと、もう一つ桃太郎に聞きたいことがあるんじゃが……

儂がお主に渡した剣は、これかの?
……! そうです! この刀です!
…………そうか……ふ……ふはは……
ど、どうしたのですか?
実は、私とお爺さんは昔ね……
よい、婆さん。儂が話す。
実は儂には弟が居てのう。

儂らの家系は代々刀鍛冶じゃったから、儂も弟も同じように刀を打って生活しておったんじゃ。

山へ芝刈りに行くときのカマもお爺さんが造ったのよ。
じゃが、儂の弟は天才じゃったのよ。儂がどれだけ必死で打ち込んだとしても、決して弟の刀には届くことは無かったんじゃ。

儂がアヤツに勝てたのは唯一……いや、これは関係ない話じゃのう。

それじゃ、この刀は……
ああ、弟の作品じゃよ。

これをお主に渡したということは、これからお主が成長するまでの間に、この刀を超える作品を打つことはできなかったようじゃのう。

じゃが……ふ……くく……ふはっは……
がーっはっはっはっはっは!!!
お、お爺ちゃんの気が触れてしまった……!?
違うわ、きっと嬉しかったのよ。あまり善いことではないけどね。
そうじゃ! 儂の弟ですら、鬼どもを討つことはできなかった!

ならば儂が創る刀が鬼を斬ることができれば、儂は弟を超えることができる!!

見ておれ愚かな弟よ! 儂を散々馬鹿にしおった恨みを晴らしてやるわ!!

がーっはっはっはっはっは!!!!

あ、お爺ちゃんが工場へ走っていってしまった。
ああなってしまったら暫くは収まらないわよ。

お腹が空けば戻ってくるでしょうし、今は放っておきましょう。

そうなのですね。

しかし、お爺ちゃんに弟が居るだなんて初めて聞きましたよ。

まぁ……色々あったからね。決していい関係とは言えないわね。

もう何十年も会っていないし、とっくに吹っ切れていると思ったんだけど……私もまだまだねぇ。

あまり無茶をしないでくれると良いんですが。
大丈夫よ。あれでも引き際は心得てるから。
……お婆ちゃんは、本当にお爺ちゃんが好きなんですね。
ふふ、今頃気づいたの?

でも桃太郎のことも同じくらい大好きだからね。

……やはり、これは鬼に勝たないといけませんね。
そのためにも、桃太郎は体力づくりの特訓をしないとね。
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登場人物紹介

名前:桃太郎

言わずと知れた桃ヒーロー。

鬼ヶ島の鬼によって殺されたが、謎の存在の力で二週目を生きることになった。

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