1:地獄、そして再起

文字数 2,161文字

むかしむかし あるところに ももからうまれた ももたろうがいました。

ももたろうは いぬ さる きじ の さんびきをおともにつれて おにがしまへむかいました。

おにがしまのおにが わるさをはたらいていると きいたからです。

そして――
桃太郎は、鬼に負けました。
げひゃっげひゃっげひゃっ!

勢いよく乗り込んできたくせにぃ、あっけなかったなぁ。

ぐっ、足をどけろ! 離せぇ! 今すぐたたっ斬ってやる!!

できるもんならやってぇみろぉ! オレらの仲間が何匹か殺られっちまったのは予想外だったがぁ、所詮は人間だぁ。非力、非力。

この腐れ外道め……! こんなことをして、ただで済むと思うなよ……!
こんなことぉ? こんなことって言うのは、お前みたいなゴミを踏み潰すようなぁことかぁ?

それとも……

うまそぉうな畜生共を食っちまうことかなぁ。げひゃっげひゃっげひゃっ!
ま、まさか……
お前らぁぁぁ、飯の用意はできたかぁぁ?
お゛おぉおお゛ぉおお゛ぉお゛ーーー!
イヌっころの丸焼きにー、脂の乗ったトリなべぇー!
そしてサルの溶岩シチュー! 全て準備万端でございますぜぇー!

げひゃっげひゃっげひゃっ!

久々のご馳走だぁぁ!

おぉぉ……犬……猿……キジ……!! なんとむごいことを……! すまぬ……すまぬぅぅ……!

大将! その桃太郎とかいうヤツは食わねぇんですかい?
おぉ、それもそうだぁ。そろそろ遊ぶのも飽きたし、コイツも料理しちまおぉう。
そ、それならオレが! オレが料理しやすぜ! 絶品のステーキができますぜ!
いやいや! オレが塩焼きにしますぜ! 蒸して作るんで柔らかくてプリップリですぜ!
どっちも美味そぉうだぁ。両方とも作っちまおうかぁ。
お゛おぉおお゛ぉおお゛ぉお゛ーーー!
桃太郎は身動きがとれないようにして巨大なまな板の上に乗せられると、その周囲を包丁を持った鬼達によって囲まれた。つい先程も使用されたのだろう。桃太郎の周囲には三匹のお供達の毛や羽が散乱していた。
ぐぅぅぅぅ………!! 離せぇぇぇぇっっ!!
げひゃっげひゃっげひゃっ! 料理される直前の動物が暴れるのはぁ、なんど見ても面白いなぁ……!
お、おおぉぉ、そうだぁ! 今度は桃太郎の家族も探し出して連れてこようかぁ! どれだけ桃太郎が弱くて、みっともなかったのかを話して聞かせながら料理してやろぉう!

きっと、きっと凄く楽しいだろうなぁぁぁ! げひゃっげひゃっげひゃっ!

わっはっはっはー!
…………許さぬ……決して……! 決して許しはせんぞぉぉぉ!!
例えこの身が果てようとも……必ずキサマらを斬り殺してやる……!! 鬼めぇぇぇぇぇ!!!
げ、げひゃぁっっひゃっひゃぁぁぁっ!
お゛おおおおぉぉぉぉぉおおおおおぉぉぉぉ!!!!!
こうして桃太郎は、自分に向かって振り下ろされる無数の包丁が見えたかと思うと、そのまま意識が途切れた。

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―――――――

――――

――

(こ……ここは……いったいどこだ……)
(からだがうごかない……こえも……)
ここはXXX。桃太郎、あなたは鬼によって殺されました。
(そうか……そうだ……! 私は鬼によって……!)
(……ここはあの世なのか。あなたは私を連れに来た天の御使いなのだろうか。)
似たようなものだと思って構いません。ですが私はあなたに――
(頼むッ、天の御使いよ! 私はあの憎き鬼どもに復讐を果たさねばならぬ! 何卒、機会を与えてくださらぬか!!)
え、えぇ。ですからあなたに一度だけ――
(この通りだ! 生命の輪廻に背く行為なのは承知しているが、このままでは死んでも死にきれん!) 
桃太郎。私の話を――
(私にできることはなんでもする! お願いだ!!)
話を聞け。
(はい。)
……ごほん。つまりですね、あなたの望みどおりにチャンスを与えようと思うのです。
(ま、真でございますか!)
はい。一度だけですが時間を赤ちゃんの頃まで巻き戻してあげましょう。あ、記憶は残してあげますよ。
(おぉぉ、助かります。天の御使いはそんなこともできるのですね!)
えっへん。すごいでしょ。
(はい。ですが少々調子に乗りやすいようですね。)

うるさいですよ。

……それでは、あなたは再度の人生を歩むということで良いですね?
(もちろんだとも! あの鬼どもの所業。今思い返しても腸が煮えくり返る……! 奴らに目にもの見せてやれるならば、これを逃す手などあろうはずもない!)
わかりました。それでは、あなたを再び現世へと再起させます。
(あ、その前に一つだけ聞きたいことがあるのだが……)
なんでしょう? 彼氏は募集中です。
(いや、それは別に興味が無い。)
えー、それ以外に聞きたいことなんてあるの?
(天の御遣いよ。あなたは、なぜ私に機会を与えてくれるのだろうか。そこがどうしても気になるのだ。)
なんだ、そんなことですか。簡単なことですよ。
私はハッピーエンドが好きなんです。

だから頑張ってくださいね。

(……わかり申した。必ずや幸福な結末をご覧に入れましょう。)
期待してますよ。桃太郎。

では今度こそ……

ふんにゃらーほんにゃらーたろももー……

せいやー!!

(い、意識が……だんだんと遠く……)
(な……………る…………………)
(……………………)
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登場人物紹介

名前:桃太郎

言わずと知れた桃ヒーロー。

鬼ヶ島の鬼によって殺されたが、謎の存在の力で二週目を生きることになった。

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